販売こそ事業の牽引車といえる。販売さえ順調にいけば、企業の大部分の問題は解決するといっても過言ではない。
それにもかかわらず、多くの企業で最も苦手というよりは、殆ど何も分っていないといったほうが、より真実に近い表現である。そのために、いたずらに誤った努力を重ね、見当外れの行動を繰返している。
これでは優れた成果など期待できる筈がない。販売に関する基本的な認識不足は、大きく分けて三つになる。
第一には、「販売は営業部門でやるもの」という・営業部門依存型・の思考である。そのために「会社の営業部」ではなく「営業部の会社」になってしまう。つまり、社長の考えなどはどこかに忘れられて、会社は営業部門のうち出す方向に行ってしまう。
第二には「天動説」である。「世の中は我社を中心に回っている」という思想である。この思想は、人間性の本質に根ざしているだけに、極めて根強く、しかも厄介なものである。
第三には、「市場戦争」が何かが分らない、ということである。つまり、市場戦争とは「占有率」戦争だということが、本当の意味で理解されていない。そのために、占有率確保戦術など、全くといっていいほど考えられていないのである。
本篇では、右の三つの点の誤りを指摘しながら、正しい販売戦略はどのようなものであり、これをどう展開していったらいいかをのべてみたのである。文中いたるところにでてくる誤った思考と行動から、「人間というものは、こうした物の考え方をするものである」という教訓をくみ取っていただければ幸いである。その教訓を、自らの企業の販売戦略に生かして成果をあげていただくことを、切に祈る次第である。
1977年1月
一倉 定