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戦略・戦術

第143話 税務署伺いにはご注意

強い会社を築く ビジネス・クリニック

関東地方で大手自動車会社の販売店(カーディーラー)を
十数店舗展開している山木グループ(仮名)の山木会長(仮名)から、
株式承継の相談にのってほしい、と言われました。
 
『山木会長、ところで、退職金はお取りになりましたか?』
 
質問すると、山木会長から意外な回答が返ってきました。
 
『えぇ、前期末に2億ほどもらいました。』
 
『えっ?! なぜ?!』 
 
山木グループの年商は、100億、経常利益はここ数年3億円前後。
自己資本比率は40%の優良企業です。
おまけに、山木会長は創業者です。
これほどの会社の創業者なら、最低5億、いや10億近く取ったって高すぎません。
明らかに低すぎるのです。
 
聞けば、役員報酬も直前で2百万円ほどしかもらっていなかったそうです。
 
確かに、役員報酬そのものが低かったということはありますが、
それでも、私たちの相談経験から申せば、4億円は出せた案件です。
 
『なんで、2億円なのでしょうか?誰かに相談したんですか?』と質問しました。
 
『はい、実は、税務署に事前に相談に行きましてね。
もともとは、2.5億ほどもらおうと思っていたんですけど、
“高すぎる”と言われまして。それで、2億円ちょっとにしたんですよ。』
 
『誰が税務署に行ったんですか?会長自身が行かれたのですか?』
『いえ、義理の息子が社長をやっていまして、その社長に行かせました。』
 
義理の社長と話をしてみると、とても財務知識や税務知識が十分あるタイプではありません。税務署に行くなら、もっと知識がある人間、せめて複数名の税理士に相談して同行してもらうべきです。
 
『社長、どういう根拠で、税務署に2億円と言われたのですか?』
 
『もともと、会長の山木には退職金を2.5億円出す予定でした。
それで2.5億円出そうと思っていますけど問題はないものでしょうか?』と質問したんです。
 
『税務署は、なんといいましたか?』
『はい、そのときには、2.5億を計算した根拠となる当社の退職金規定を持っていきましたが、その規定の数字が、高いですね。もう少し下げてください、と言われました。
その際に、税務署の担当者から、退職金規定に関する資料も頂きました。』
 
実際にその資料を見せてもらいました。
『この資料では、功績倍率として3.0と書いてありますね。
この3.0を使ったのですか?』
 
『いえ、3.0だと少し高いということで、その下の2.2という倍率を使うのがちょうよいでしょう、と言われました。
そう言われた以上は、その倍率を使わざるを得ないため、
当初の退職金の金額を下げて、2億円にしたんです。』
 
いかがでしょうか?
 
何も知識がない方が、税務署を訪ねれば、税務署の指導に何ら疑問を持たないかもしれません。反論する根拠になる知識も、持ち合わせていないでしょう。
 
しかし、創業者への功績倍率2.2倍は、明らかに低すぎます。
 
税務署からすれば、役員退職金は少しでも少ないほうがよいため、
2.2倍が適正といったのです。
 
私たちの話を聞いて、山木会長は、ひどく後悔されています。
『なんだ、失敗したなぁ・・・いまから、一旦退職金を戻して、もらい直すことはできませんか?』
後悔しても、さすがにどうしようもありません。
 
重要な取引、対策を打つ場合に、税務署に相談に行くこと自体は、大切なことです。
しかし、税務知識がない方が行くと、税務署に上手に誘導され、
大きな節税策を事前にストップされてしまいます。
 
私たちは、これまで3億円ほどの退職金から、最高は23億円の退職金と、
日本全国、たくさんの高額退職金のお手伝いを行ってきました。
 
そして、事前に税務署に伺う場合には、
なぜ、社長に高額の退職金を出すのか?出せるのか?
これをしっかりとストーリーとして文書にして、税務署に提出しています。
これがいわゆるエビデンス(信憑書類)なのです。
 
高額の退職金をはじめ、重要な取引、対策を行う場合は、
顧問税理士の先生でもよいので、信頼できる専門家と一緒に相談に行くべきでしょう。
そして、その際には、必ずエビデンスを持参しましょう。
 
エビデンスを持たずに、自分たちだけで税務署に相談に行っても、
山木グループのような扱いを受けるだけなのです。
 
税務署伺いをする場合には、十分にご注意ください。
 

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