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人間学・古典

第1話 「日本語を考え直す」

令和時代の「社長の人間力の磨き方」

 「言葉の乱れ」が指摘されるようになってどれほど経つだろう。テレビのニュースや時代劇のアクセント、イントネーションの粗雑さには耳をふさぎたい想いだ。同時に、我々の日常でも明らかに言葉遣いが「汚く」なっているのはご承知の通り。聴いただけでは性別の判断も危ういような乱暴な言葉が平気でまかり通っている。

 その一方、「言葉は時代と共に変容する」宿命を持っているのも否定のできない事実でもある。さすがに、最近は諦める人が多くなったのか、あまり指摘をされなくなった「ら抜き言葉」も、昭和30年代の小説では普通に使われている。恐らく、後10年もすれば「ら抜き言葉」が時代標準となり、誰も違和感を覚えなくなるのだろう。

 時代が変わる中で、言葉の変容にも自分なりに「折り合い」を付けて生きるのも生活の知恵で、それを否定することまではしない。しかし、世界で類を見ないほどに豊潤で繊細な表現を持つ日本語を、「ぞんざい」に扱うことはいかがなものか、と思う。日本語は、とにかく意味が通じれば良いのだ、というレベルの言葉ではない。千年以上の歴史の中で、身分の上下、地方の違いなど、多くの要素を混ぜ合わせながら丹念に紡ぎあげた美しい織物のような言葉なのだ。その先人の遺産を疎かにしているのではないか。

 仕事柄、大小の規模を問わず、会社の人事研修の一貫として「日本の文化や伝統」についてお話に伺うことが多い。そこで感じるのは、組織のトップに立つ方の言葉遣いが美しい会社は、社員教育が行き届いている、ということだ。

 「スター」と呼ばれる人々が輝いて見えるのは、単純に容姿の問題だけではない。常に多くの人に見られているという意識が、所作や言葉を美しく、品のある物にしている。企業のトップも同様で、多くのお得意様、社員、関係者などに、一挙手一投足はもちろん、語調の強弱まで観察されている。その結果、周辺にいる人々は、意識無意識の割合はそれぞれながら、その口調や言葉を真似ているケースも多いのだ。

 自分の言葉遣い次第で、後に続く人々の言葉に対する感性や人格に影響を与えるとなれば、仇や疎かな喋り方はできないことになる。ここがトップの辛いところでもあり、素養の見せどころでもある。

 日本語は、幸か不幸か指示代名詞を多用でき、それを我々は融通無碍に操ることができる。「おい、あそこのそれ、取ってくれないか」という言葉が通じてしまうケースは珍しくない。誰しも年齢的なものによる度忘れなどがあるので、全部を否定することはできないが、ここで面倒がらずに「中村さん、書類ケースの二段目の業績報告、出してくれないかな」と言えば、受け手の印象は確実に変わる。加えて、人に気付かれずに、脳の訓練をすることもできる。まさに「言葉は使いよう」ではないか。

 異常気象も変化の度合いの激しさを増す中、夏は暑いに決まっている。顔を合わせるたびに、「暑いですね、全く」とばかり言っているのも芸がない。ジリジリした日には「今日は、油でりで…」という表現があり、夕暮れには「この辺りで一雨ほしいですね」とも言える。風のない夜は、海でなくとも「今夜は凪で、風が止まりましたね」と言えばその蒸し暑さがより鮮明に伝わる。

 どうも、昨今の日本人は、豊かな言葉に囲まれた贅沢を放棄して、「言葉惜しみ」をしているような気がしてならない。そんなものを節約しても利息は付かない。

 何となくわかったような気がする横文字は、深く意味を理解しようともせずに飛び付く割に、昔から使い馴染んだ言葉をいとも簡単に捨ててしまうのは、私には納得できない。こうして、ささやかな抵抗を試みていても、私のような人間は旧弊だ、と世の片隅に追いやられるのが現実だ。しかし、多くの皆さんの前で「日本の文化」なぞとお喋りをさせていただいている責任がある。この美しい「ことば」を、我々の世代の忘れ物にせぬよう、刀折れ、矢が尽きるまでとは大袈裟だが、美しいことば遣いを心掛けるつもりだ。自分ができないようでは、人の揚げ足取りもできまい(笑)。

 ところで、我々の「日本語」は、どこから来て、どのような影響を受けながら発達したものなのだろうか。実は、源流については諸説あるものの、いまだに確定をみていない。「東インド」近辺のタミール語に源を求める説もあれば、「島国」の特殊な地理的環境の中で、独自に生まれた言語だとの考え方もある。その発達過程において、中国、朝鮮半島の文化の影響を色濃く受けていることは、「漢字」という言葉一つを見ても一目瞭然だ。時代によっては、峠を一つ超え、川をまたいだだけでも言葉が違っていた。

 先人たちが創り上げた豊かな「ことば」を、たくさん知り、使った方が得策なのは間違いない。言い回しを少し変えるだけで、何となく尊敬の眼差しを受けたりもする。これは、使わない手はないだろう。

 

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