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交渉力を備えよ(51) 合意の後始末

指導者たる者かくあるべし

 第二次世界大戦後の日本外交の懸案であった日中関係の正常化に関する外交交渉は北京での四日間の交渉で合意に漕ぎ着けた。

 1972年(昭和47年)9月29日、両国首相は共同声明に署名し、両国は平和友好条約の締結に向けて交渉を開始することが確認された。

 後日、外相の大平正芳は、「戦後、外交自主権を奪われてきた日本が自主性を取り戻す契機となった」と、ある講演で振り返っている。首相田中角栄の思いも同じであったろう。

 世界史的視点で時代を見据え、北京に飛んだ田中、大平の果断がなければ、日本の自主外交の回復はさらに遅れたに間違いない。

 対中賠償問題は、中国首相の周恩来が、「われわれはこれまでに、諸外国への賠償で苦汁をなめてきた。その思いを日本人民に味あわせたくない」と日本代表団を感動させた口舌をふるって賠償放棄した。

 台湾問題でも中国は「一つの中国」を日本に飲ませ、日台断交の文言は、中国側の配慮で共同声明には盛り込まず、共同声明発出後の会見で大平が「これをもって日華(日台)平和条約は存続の意義を失い、終了した」と宣言することで結着を見た。

 双方が譲るべきは譲り、実を取った形となっている。

 しかし、重要な問題が取り残された。日本が実効支配している尖閣諸島の問題である。

 三日目の首脳会談で田中は、中国側に迫ったが、周恩来は、「周辺で石油が出るから問題になっているだけだ。この場では話題にしたくない。やめときましょう」と逃げ、日本側もそれ以上の言及は避けた。

 六年後に訪日した中国副首相の鄧小平も、「それは次の世代の智恵に任せよう」と巧妙に先送りした。そして、今…

 中国は、周辺海域で領海侵犯を繰返し、領土奪取の圧力をかけ続けている。東シナ海の共同管理水域では、中国側が一方的にガス田の開発を強行している。

 中国には、「求同存異」という言葉がある。

 「小異を残して大同につく」、交渉・妥協の要点である。ともすれば、日本人はその原則を「小異を捨てて大同につく」と考える。

 交渉においては、一旦残した「小異」がやがて、両者が激突する「大異」となることを考えておく必要がある。

 そうならぬようにする智恵はまさに、交渉妥結後、次の世代とは言わないまでも、事後に問題が存在することを忘れず、解決を目指す心構えが重要なのだ。

 「小異」は捨てて消えるものではないのだ。

 (書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

参考文献

『早坂茂三の「田中角栄」回想録』早坂茂三著 小学館
『田中政権・八八六日』中野士朗著 行政問題研究所
『田中角栄の資源戦争』山岡淳一郎著 草思社文庫
『記録と考証 日中国交正常化・日中平和有効条約締結交渉』石井明ら編 岩波書店
『求同存異』鬼頭春樹著 NHK出版

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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