第107話 中国イメージを覆す新興企業が急台頭

中国経済の最新動向

経済・株式・資産

2018.06.06

沈 才彬(多摩大学 教授)

◆イノベーションを原動力に
 ここ数年、中国の新興企業は急速に台頭している。配車アプリ世界最大手滴滴出行(デイデイ)、シェア自転車世界最大手モバイク、商業用無人飛行機ドローン世界最大手DJI、出前アプリ世界最大手餓了麼(ウーラマ)、通信機器世界最大手ファーウィ、ネット通販・スマホ決済世界最大手アリババ、民泊中国最大手途家(トウージャ)、アジア最大の時価総額を有するSNS世界大手テンセント、グーグルに次ぐ世界第2位の検索エンジン百度。以上9大新興企業は、いずれもイノベーションを成長の原動力とする民間企業だ。
 現在、中国経済成長をけん引しているのは正にこれらの新興企業に代表されるニューエコノミー分野である。

 私はここ2年間にわたり中国新興企業の実態調査を続け、その成果を近著『中国新興企業の正体』(角川新書、2018年4月)に纏めた。日本経済新聞(4月28日朝刊)は書評で次のようにこの本を評価している。

↑筆者の近著『中国新興企業の正体』

 「中国で沸き立つ創業のドラマを生き生きと伝えている。若者たちが常識にとらわれない発想で起業に挑戦し、社会がそれを応援する数々の逸話は『国有企業による経済支配』『独創的な技術の欠如』といったこれまでの中国のイメージを覆す。先入観を排し、活力あふれる『中国の今』を知るいかに大事かを感じさせる一冊だ」。

◆バックに科学技術の飛躍的進歩
 ニューエコノミー分野では、既に中国は先進国入りしていると言っても大げさではない。この分野の伸張に不可欠なのはイノベーションの広がりであり、そのバックには中国の科学技術の飛躍的進歩がある。

 日本文部科学省が公表する「世界に注目される論文数の国別割合(2013~15年)」によると、第1位は米国で世界全体の28.5%を占めている。次いで中国は15.4%を占め、10年前の第6位から第2位へ躍進した。日本は残念ながら世界全体の3.1%しか占めない第9位で、10年前の第4位から大きく後退している。

 中国の躍進ぶりは米国が選ぶ科学技術分野の共同研究の相手国の順位からも伺える。同じく文部科学省の資料「科学研究で米国が選ぶ共同研究相手国(2013~15年)」によれば、化学、材料科学、物理学、計算機・数学、工学、環境地球科学、臨床医学、基礎生命科学など8分野で、米国がパートナーとして選んでいるのが6分野において中国が第1位である。かたや日本はいずれの分野でも第5~13位に甘んじている。

◆政府規制 日中の相違
 新興企業の活躍は政府の規制緩和と密接な関係にある。中国は規制が厳しいとよく言われがちだが、実はそうでもない。確かに既存の産業分野の規制は厳しい。しかし、ネットとスマホの普及に伴い新しい分野が次々に誕生すると、政府はすべての分野に目配りすることができず、幅広いグレーゾーンが存在するようになる。ここを狙って、民間企業が続々と進出している。

 グレーゾーンへの新規参入に関し、政府は「先賞試、後管制」(まず試しにやってみよう、問題があれば後で政府が規制に乗り出す)という方針を貫いている。ニューエコノミー分野で急成長を遂げた新興企業は、まさに中国政府の「先賞試、後管制」の産物なのだ。

 一方、日本の状況を中国語で表すと「先管制、後賞試」ではないだろうか。つまり政府は「まずは法律で規制して後から民間の参入を許可する」という姿勢だ。法整備がなされていないグレーゾーンに参入する日本企業は稀で、仮に出てきても「出た杭」としてすぐに打たれる。これは日中間の大きな相違と言える。 (了)

講師紹介

沈 才彬(多摩大学 教授)

1944年中国江蘇省海門市生まれ。中国社会科学院大学院修了。同大学院準教授、東京大学、早稲田大学、御茶ノ水女子大学、一橋大学などの客員研究員を歴任。三井物産戦略研究所主任研究員、同中国経済センター長などを経て、08年4月より、多摩大学経営情報学部教授、および、同大学院経営情報学研究科教...>もっと見る

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