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人事・労務

第129話 あらためてベースアップの意義を考える

「賃金の誤解」

 1月28日に労使トップ会談が行われ、令和初となる春季労使交渉が幕を開けました。経団連は、①年功序列型賃金制度の見直し、②高度IT人材や海外人材などの獲得を念頭においたジョブ型雇用の導入拡大、③成果に基づくベースアップ(ベア)原資の配分などといった「脱一律」への取組みを掲げ、従来型の業界横並びや全員一律のベアに対して否定的な見解を示しています。(注:ベアとは本来、「賃金テーブル全体の底上げ」を行うものであり、全社員が等しく適用されるべきものです。したがって、“成果に基づくベア原資の配分”という考え方には、疑問符が付きます。)

 

 たしかに、同一業種の企業間でも業績は各社各様ですので、今後は各社バラツキのある回答となっていくでしょう。また、高度IT人材の採用に関しては新卒でも年収1,000万円を提示する企業が現れるなど、すでに大きな変化は起き始めています。もっとも、高度IT人材の採用は、一般事業会社が医師や弁護士などの専門人材を採用するようなものですので、今に始まった問題でもありません。ただ、この分野のスキルを持つ人材の絶対数がまだ非常に少ないため、世界的な争奪戦となっているのが現状です。

 

 これらの経営課題の根底に共通するのは年功序列の賃金制度であり、年齢や勤続年数といった属人要素をもって昇給してしまうことの限界に他なりません。社員を想う経営者であれば、より頑張って成果を出してくれた社員に、限りある原資からより多く給料を払いたい、と考えるものです。仕事ぶりや成果に直接関係のない要素で昇給額が決まることに納得がいかないのも当然です。また同時に、優秀な社員ほどこの年功的な賃金処遇に不満を持ちやすいのも事実です。

 

 では、実力主義の賃金制度さえ採用すれば、ベースアップは考える必要がなくなるのかというと、決してそうではありません。このような制度とその適切な運用は健全な競争を生みますが、あくまでも“自社内”での競争が主題です。

 

 わが社の給与水準を考える際にもう一つ重要となる視点は、『社外』との比較・競争です。同業他社や周辺地域の様々な企業はもちろんのこと、自社よりも大きな企業などとも比較を行い、「わが社の給与水準は見劣りしていないか」、「周囲より半歩でも優位に立てているか」など、採用初任給相場や最低賃金の動向も含めた賃金情報をもとに、毎年検証する必要があります。その他に、税・社会保険料の負担増や物価の上昇なども重要な外部要因に挙げられます。まずは定期昇給分がいくらになるかを把握した上で、賃金動向などの外部要因を総合的に勘案し、わが社のベア額を決めるのが正しい賃上げ手順となります。

 

 このように、ベースアップには社外との競争力を維持・向上させる重要な役割があり、業界横並びの形は消えたとしても、経営上、今後も不可欠なものであり続けるでしょう。

 

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