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第94回 「もう一つの少子化」こそが日本経済発展の最大の阻害要因だ!
~渋沢栄一の起業家精神と矜持を取り戻そう!~

次の売れ筋をつかむ術

少子高齢化が日本の将来に大きな影を落としているが、実は、「もう一つの少子化」こそが、日本経済の発展にとって最大の阻害要因なのだ。
 
 
 
●先進国最低の企業開業率
 
「もう一つの少子化」とは、30年以上にわたり、私が警鐘を鳴らし続けてきた概念で、「法人の少子化」のことだ。
 
近年、わが国においては、法律によって権利義務の主体と認められた法人(juridical person, legal entity)の少子化が起こっている。
 
つまり、企業の開業率が低迷しているのだ。
 
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日本における企業の開業率は、戦後の1950年代~1970年代前半までは10~20%台もあった。
 
その後も1990年代前半のバブル崩壊までは5%以上を維持していたが、失われた20年に突入してからは4%前後に低下した。
 
近年、少し持ち直したものの、約10%前後のアメリカ、イギリス、フランスなど欧米諸国に比べ半分未満の、主要先進国の中で最低水準にある。
 
また、企業を開業する起業希望者は、1970年代~1990年代には160~180万人いたが、1997年以降、減少に転じたままだ。
 
さらに今世紀に入って激減し、昨今は80万人台に半減している。今や日本は先進国どころか、もはや資本主義国とは言えない「起業家精神不毛の地」に堕している。
 
 
 
●日本経済の時計は半世紀以上も止まったまま!
 
アメリカにおける、IT、エレクトロニクス分野のトップ20社の半数は25年前にはこの世に存在すらしていなかった。
 
また、3分の1はアメリカを代表する企業のフォーチュン500にも選ばれないほど規模が小さかった。
 
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一方、日本でも昨今もIT長者は出ているものの、残念ながら、フォーチュン500に匹敵する国際的規模から見れば、ソニーやカシオ計算機が創業した1946年(昭和21年)頃が起業期の実質的な最後だ。
 
1959年(昭和34年)創業の京セラ、1973年(昭和48年)創業の日本電産などを除けば、ほとんど新たな企業はランクインしていない。
 
老舗企業が多いのは良いことだが、老舗企業しかないのは、高齢者ばかりになりつつある日本社会と二重写しになる。
 
ITやエレクトロニクスのように日進月歩の業界でさえ、そのように停滞した状況にあり、他は推して知るべしである。
 
つまり、日本経済の時計は半世紀以上も止まったままなのだ!
 
これでは、アップル、グーグル、アマゾン、フェイスブック、テスラのような次世代を牽引する企業が生まれ出るはずもない。
 
少子化が社会の活力を削ぐのと同じように、「法人の少子化」は経済のダイナミズムを失わせる。
 
また、経済の成長なくして、若い世代が結婚して子どもを持とうとは思えない。
 
つまり、「法人の少子化」を解消せずして、人の少子化も解消しないのだ。
 
 
 
●「馬車をいくらつないでも鉄道にはならない」(シュンペーター)
 
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シュンペーターが述べたように、資本主義の成功が巨大企業を生み出し、それらが官僚的になって活力を失わせ、社会主義へと移行して行くことになりかねない。
 
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シュンペーターが主著「経済発展の理論」の中で、「馬車をいくらつないでも鉄道にはならない」と喝破した通り、過去の延長線上に未来のビジネスモデルは存在しない。
 
ルーティンワークをこなすだけの経営管理者(土地や労働を結合する者)ではなく、生産要素のまったく新たな組み合わせによるイノベーション(新結合)を実現するアントレプレナー(起業家)による「創造的破壊」こそが、新たな経済を起動するのだ。
 
 
 
●法人の開業率低下に歯止めをかけよ
 
日本経済を元気にするには、「もう一つの少子化」、つまり、法人の開業率低下に歯止めをかけ、反転攻勢に転じねばならない。
 
2013年に閣議決定された「日本再興戦略―JAPAN is BACK―」の中でも、開業率を欧米並みの10%台にする目標が掲げられている。
 
同年、ニューヨーク証券取引所を訪れた際に、安倍晋三首相は、「日本をアメリカのようにベンチャー精神あふれる“起業大国”にする」と述べた。
 
 
 
●“日本の近代資本主義の父” 渋沢栄一
 
再びベンチャー精神を取り戻そうという機運が高まっている中、注目を集めているのが、“日本の近代資本主義の父”と呼ばれる渋沢栄一だ。
 
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2014年に、「富岡製糸場」が世界遺産に登録された際にも、その生涯が脚光を浴びた。渋沢は、同製糸場の設立を立案し、創業時に中心的役割を担った。
 
また、第一国立銀行、東京証券取引所、東京瓦斯、東京海上火災保険、王子製紙、田園都市(現・東京急行電鉄)、秩父セメント(現・太平洋セメント)、帝国ホテル、京阪電気鉄道、キリンビール、サッポロビール、東洋紡績など500社以上の企業の設立・経営に携わった“日本一の起業家”だ。
 
渋沢は、生涯をかけて、経済人の地位向上に努めた。
 
 
 
●起業家の地位・評価が圧倒的に低い日本
 
しかし、現在も日本においては、経済人、特に自営業者の社会的な地位や評価は低く、いまだに士農工商の身分制度が残っているかのよう
 
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OECD(経済協力開発機構)による、自営業者と被雇用者のどちらでも選べる場合、自営業を選好する割合の調査でも、日本はアメリカやフランスのほぼ半分だ。
 
また、GEM(Global Entrepreneurship Monitor)の意識調査を見ても、起業家の地位や評価は欧米各国より圧倒的に低い。
 
江戸時代に、武士が商いを「射利」とさげすんだのと変わらず、今もお金儲けは悪だという見方が根強い。
 
それは、商売人はお金を儲けるためには何でもするというイメージがぬぐえないからだろう。
 
 
 
●ドラッカーが国際的に評価した“日本一の起業家”
 
渋沢栄一は、『論語と算盤』を著して、営利の追求も資本の蓄積も道義に合致し、仁愛の情にもとらぬものでなければならないとする「道徳経済合一説」を唱えた。
 
そして、東京商法会議所(現・東京商工会議所)、森有礼と商法講習所(現・一橋大学)を開設するなど、経済人の意識向上に心血を注いだ。
 
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その功績は、現代経営学の創始者と呼ばれるP・F・ドラッカーも著書『マネジメント』の序文で、「経営の社会的責任について論じた歴史的人物の中で、渋沢栄一の右に出る者を知らない」と国際的に高く評価している。
 
 
 
●渋沢栄一の起業家精神と矜持を取り戻そう!
 
アメリカでは、印刷業で成功を収めた後に政界に転じたベンジャミン・フランクリンが100ドル札に、バンク・オブ・ニューヨークや最古の日刊紙ニューヨーク・ポストを創業したアレクサンダー・ハミルトンが10ドル札に描かれている。
 
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また、イギリスでは、20ポンド紙幣の裏に、『国富論』を著した“経済学の父”アダム・スミスの肖像がある。
 
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一方、日本国の紙幣に、起業家はおろか経済人が描かれたことなどなく、何度も渋沢栄一を描く案が出たものの、実現に至っていない。
 
経済人、起業家の地位向上のために、渋沢紙幣を待望する声も高まっている。
 
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今こそ、私たちは、渋沢栄一の起業家精神と矜持を取り戻さねばならない。

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