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第38回
空前の《人手不足時代》に備えよ!
~欠陥工事・入札不調・バイト争奪戦が続発~

次の売れ筋をつかむ術

景気の回復に連れて、建設・飲食・小売・物流・製造など様々な分野で、人手不足が深刻化している。
 
その結果、初歩的なミスによって「億ション」で前代未聞の欠陥工事が発覚したり、
全国の公共工事で入札不調が続発し、工事費が1.6倍になったり、 
鉄筋工の求人倍率が9倍以上に跳ね上がったり、アルバイトやパートの時給が1500円になるなど、
前代未聞の事態が相次いでいる。
 
消費税増税後、一部、需要の落ち込みがあったとしても、人手不足と人材の質の低下は
一朝一夕には収まらないに違いない。
 
◆鹿島施工の三菱地所の「億ション」で前代未聞の欠陥工事が発覚
 
2014年2月、明らかに初歩的な管理ミスによる前代未聞の「欠陥億ション」事件が発覚し、
異例の販売中止の事態となった。
 
致命的な欠陥が発覚したのは、三菱地所レジデンスが販売していた、
東京・青山の超一等地に建つ超高級マンション「ザ・パークハウス グラン 南青山高樹町」。

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このマンションは、販売価格が最高3億5000万円、最多価格帯でも1億4000万円台という、
いわゆる「億ション」だった。
 
三菱地所の東京都心におけるフラッグシップマンションとして位置付けられた
「ザ・パークハウス グラン」シリーズの第1弾として、満を持して、販売がスタートしていた。 

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三菱地所から施工を請け負ったのは鹿島(鹿島建設)、機械設備協力会社は関電工、
電気設備協力会社は浜野電設だった。
 
かつて、フランスの女性政治家、エディット・クレッソン首相から「ウサギ小屋」と揶揄されたような
郊外の片田舎に建つ小さなマイホームであっても手抜き工事など許されるはずがない。
 
それに、三菱地所レジデンスにとって社運を賭けた大事なプロジェクトであったし、
マンション工事は儲からないとは言っても、高額物件で内外装の意匠も凝っており施工業者にとって
それなりに身入りのある仕事であったに違いない。
 
場所も価格も超一流、施主も施工も設備も一流企業のはずだが、出来上がったマンションは
とても一流とは言えない、信じがたい初歩的ミスによる看板倒れのお粗末な代物だった。

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建物の工事を行なう場合、当然、設計図や配管の図面を作成し、それらに基づいて施工される。
ところが、
スリーブと呼ばれる壁や床に開ける、約6千ある空調や下水などの配管用の孔が開いていなかったり、
位置が間違っていたりする瑕疵(かし)が約1割もあったのだ。
 
しかも、問題が発覚したのは、マンションに関するネット掲示板への何者かによる書き込みが
きっかけだった。
2013年の12月に書き込まれた情報を見た契約者が三菱地所に問い質したことから
不具合が明らかになったのだ。
 
販売された86戸のうち83戸が契約済みで、当初、2014年3月20日に引き渡しの予定だったが、
4~5カ月延期することも検討された。
しかし、調査の結果、新たに梁にも問題が見つかり、1年以上遅れることが判明した。
 
そこで、三菱地所側が契約者に対して、「合意解約のお願い」という異例の事態とあいなった。
手付金を戻した上で、迷惑料と実損分(仮住まいの家賃など)を支払うことで交渉が続いている。
 
しかし、それだけの「億ション」を購入するエグゼクティブにとってはお金は問題ではない。
彼らには、新たな住居やその部屋に合った家具を探すための時間や精神の安定の方がずっと大切なのだ。
 
私の友人・知人も事前に知っているだけで4家族が入居予定だったが、皆、怒り心頭に発し、
呆れ返っている。
 
以前の住まいの売却が決まっていたり仮住まいの場合、急いで住まいを探さねばならなくなる。
 
それにも増して、子供の教育をはじめ思い描いていた家族の将来の計画が水泡に帰してしまったことが
最もつらく許せないだろう。
 
83戸の被害者家族は、もしネット上の書き込みによる内部告発がなく、
引き渡し後、さらに深刻な事態に陥っていたことを考えればまだ良かったとするしかないのか。
 
今回の「欠陥億ション」事件が特殊ケースであれば良いが、素人でもわかりそうな、
ここまでの唖然とする事態に、長期にわたる工事期間中に、現場にいた関係者が誰も気付かないというのは、
その裏に企業や社会の構造的問題が横たわっていると考えるのが一般的だろう。
 
◆「豊洲新市場」まさかの入札不調で工事費が1.6倍に!
 
2013年11月、東京都による、築地市場が移転する「豊洲新市場」の建築工事に関する一般競争入札が、
人件費や資材価格の高騰による建設費の上昇を理由に、大手ゼネコンのグループがすべて辞退し、
不調に終わった。

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不調になったのは、新市場の青果棟他の建設工事、同水産仲卸売場棟他の建設工事、同水産卸売場棟他の
建設工事の3件。

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いずれも新市場の中核施設の工事で、各々の予定価格は150億円を超え、総額628億円という、
東京都の発注案件では近年最大級の規模だった。都の担当者は「不調は予想していなかった」と述べた。
 
新市場は、2020年の「東京オリンピック」の主要施設が集中する湾岸エリア大改造の目玉の1つであり、
首都東京の威信を賭けて完成させねばならない施設だ。
 
そこで、都は、12月27日、入札が不調となった新市場の建築工事3件を改めて公告した。
 
その総額は1035億円と、なんと前回の628億円から約400億円も上乗せし、約1.6倍もの価格で
やっと落札された。
 
正確には、
「豊洲新市場(仮称)水産仲卸売場棟ほか建設工事」は
清水建設・大林組・戸田建設・鴻池組・東急建設・錢高組・東洋建設の
JV(ジョイントベンチャー=共同企業体)が、
「同水産卸売場棟ほか建設工事」は
大成建設・竹中工務店・熊谷組・大日本土木・名工建設・株木建設・長田組土木のJVが、
「同青果棟ほか建設工事」は
鹿島・西松建設・東急建設・TSUCHIYA・岩田地崎建設・京急建設・新日本工業のJVが、
それぞれ仲良く(?)落札した。
 
あらゆる工事のコストが1.5倍以上に一気に増加すれば、予算など立てようがないし、
あらゆる計画がいつ完成するのかもわからなくなってしまう。
 
近年、建設工事で、工事を引き受ける建設会社が決まらず、入札不調が全国で相次いでいる。

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東日本大震災からの復興工事が多い宮城県では、2013年4~11月に県が発注した工事の内、
約25%もの案件で入札が成立しなかった。

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資材の価格が上昇していることに加え、人手不足が深刻化しているため、予定されていた工期が
ズレ込む事態が各地で頻発している。
 
例えば、東日本などに建設作業員の流出が続いている大阪府では、2013年11月の時点で、
現場監督の有効求人倍率は4.24倍、鉄筋工は実に9.27倍にまで跳ね上がっている。
 
公共工事の入札不調は全国的に常態化しており、取りっぱぐれのない公共工事よりリスクが高い
民間の工事に至っては、さらに予算も工期も流動的になり、熟練工の不足により質の低下が懸念される。
 
◆時給1500円時代到来!飲食・小売・物流業界も人手不足で悲鳴
 
人手不足で困っているのは建設業界だけではない。飲食・小売業界も悲鳴を挙げている。
 
2013年12月20日、千葉市に、国内にあるイオンのショッピングセンターとしては3番目の広さを誇る
「イオンモール幕張新都心」がオープンした。

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開業に向けて、飲食業、小売業を中心に約350のテナントが、3000人強という大量のアルバイト・パートを
一気に募集した。
 
その結果、それまで千葉県のアルバイト・パートの平均時給は940円強だったが、
折りからの景気回復の影響もあり、人材の争奪戦が勃発。
 
「面接の席に着くなり採用された」という話がSNSやネット上で飛び交い、時給がまたたく間に高騰し、
一時的に時給1500円にまでなるに至った。
 
その余波は湾岸地域を中心に千葉県内のさまざまな産業に波及している。

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山崎製パンの千葉工場では、クリスマスシーズンを前にケーキの生産などを担う年末のアルバイトの時給を
1000円と前年より100円も引き上げたが、応募は募集人数を大幅に下回った。
 
また、物流・ロジスティクスの分野でも人手不足が深刻化している。
 
国土交通省の調査でも、2015年には、必要とされるドライバー数の88万3千人に対して、
供給されるドライバー数は74万2千人と14万1千人もの不足が予測されている。
 
◆あらゆる事業は人に始まり人に終わる
 
有効求人倍率は1を超し、今や自動車などの生産現場でも人手が足りなくなりつつある。
 
つまり、人手不足がボトルネックとなり、需要があっても、モノを作れず、モノが動かない状態に
陥っているのだ。
 
現在、日本の生産者人口は約7900万人いるが、今後、毎年100万人近く減少して行く。
 
それに、2008年のリーマン・ショック後、6年にもわたって、企業が正社員採用を抑制し続けたことが
ボディブローとなって効いて来ている。
 
消費税増税後、一部、需要の落ち込みがあったとしても、人手不足と人材の質の低下は
一朝一夕には収まらないに違いない。
 
言うまでもなく、あらゆる事業は人に始まり人に終わる。
 
質の高い人材を採用し、定着化させ、意識を高めることのできた企業が勝ち残るのだ。

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