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第15回 いよいよ「航空戦国時代」に突入!
~「LCC」(格安航空会社)元年で日本の空はどう変わる?~

次の売れ筋をつかむ術

3月1日、日本初の「LCC」として、「ピーチ・アビエーション」が、関空~福岡・札幌の2路線をスタートさせ、
日本でも「空の鎖国」が終焉。いよいよ「航空戦国時代」に突入した。

2012年は、日本にとっての「LCC元年」だ。
「LCC」とは「ローコスト・キャリア」の略で、格安航空会社のことである。

「ノンフリル・キャリア」とも呼ばれ、効率化とサービスの簡素化によって運航費用を低く押えることで、
運賃が従来に比べて5~7割安い低価格な航空輸送サービスを提供する航空会社を指す。


世界の趨勢に押されて、「LC」(レガシー・キャリア=既存の大手航空会社)
あるいは「フルサービス・キャリア」と呼ばれる
全日本空輸(ANA)、日本航空(JAL)も資本参加するLCCが本格参入することで、
今まさに日本の空が大きく変わろうとしている。

3月1日、関空(関西国際空港)を拠点とする「ピーチ・アビエーション」(ANAが出資)、

7月3日、成田(成田国際空港)と関空を拠点にする「ジェットスター・ジャパン」(JALが出資、オーストラリア発祥)、

8月、成田を拠点とする「エアアジア・ジャパン」(ANAが出資、マレーシア発祥)

の新たな3社のLCCが相次いで就航する。

既に日本国内で運航している日本のLCCである
「スカイマーク」、「エア・ドゥ」、「スターフライヤー」、「ソラシド エア」(スカイネットアジア航空)の4社や、

日本に乗り入れている韓国の「チェジュ航空」、「エアプサン」、「ジンエアー」、「イースター航空」、
「ティーウェイ航空」の5社、
シンガポールの「ジェットスター・アジア航空」、マレーシアの「エアアジアⅩ」、フィリピンの「セブ・パシフィック航空」、
オーストラリアの「ジェットスター航空」、中国の「春秋航空」のアジア・オセアニアの外資系LCC10社、
そして既存の国内外のLCも入り乱れて、競争が激化することは必至だ。


◆日本の空を塗り変える「LCC」3社のプロフィール

まずは、今年、日本の空を塗り変える3社の横顔をご紹介しよう。

◎「ピーチ・アビエーション」 http://www.flypeach.com/jp/Home.aspx

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「Peach」 (ピーチ)は、ANAと香港のファーストイースタン・インベストメントグループ、
および産業革新機構が出資している。

3月1日、関空~札幌、関空~福岡の2路線を就航。
3月25日より関空~長崎、4月1日より関空~鹿児島。
5月1日より関空~ソウル、7月1日より関空~台北を開設。
夏には沖縄と香港に、その後、中国沿海部、グアム、サイパンなどの路線を検討中だ。

1月には、関空~札幌、関空~福岡の路線の5000席を片道250円というキャンペーン価格で販売して話題を呼んだ。
国内線の正規運賃は片道4780円~1万4780円と見られる。


◎「ジェットスター・ジャパン」 http://www.jetstar.com/jp/ja/home

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オーストラリアのLCであるカンタス航空の子会社のLCC「ジェットスター航空」と提携した会社で、
カンタス、日本航空、三菱商事の3社が共同で設立した。

カンタスはLCとLCCをグループ内でカニバリ(共食い)状態に陥らず両立させていることで知られる。

7月3日より成田を拠点に、関空、札幌、福岡、沖縄を結ぶ路線で順次就航し、
国際線は、来年、中国や韓国と結ぶ予定。

価格は「最低価格保証制度」(プライス・ビート・ギャランティ-)を導入し、
競合他社が同一路線、同一日の同じ時間帯でより安い運賃を提供している場合には、
運賃をその価格から10%引き下げるシステムを採る。


◎「エアアジア・ジャパン」 http://www.airasia.com/jp/ja/

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アジア最大のLCCであるマレーシアの「エア・アジアⅩ」と全日本空輸による共同出資会社。
議決権はANAが持つ。

8月から、成田と札幌、福岡、那覇を結ぶ。
国際線は、10月から、成田~ソウルおよび釜山を就航した後、
台湾や中国などの国際線や国内線の就航を検討している。

「エアアジア」は、羽田~クアラルンプールが片道5400円。
往復が空港税込みで15,240円というプロモーション価格で人気を呼んでいるが、

運賃は従来の半分から3分の1程度が想定されている。


◆42%が「乗ってみたい」、しかし、25%が「様子見」、12%が「思わない」

LCCの本格参入時代を迎えて、日本の消費者はどう思っているのだろうか?

JTBが、3月1日のLCC「ピーチ・アビエーション」就航を前に、
2月上旬、インターネットを通じて、LCCに関するアンケート調査を行い、
7529人から回答を得て、消費者の意識をまとめた。

その結果によれば、まずLCCの認知度については、  
「よく知っている」が11%、「なんとなく知っている」が38%で、
合わせて49%がLCCを知っていると答えている。

既に約半数が認知しており、関心の高さをうかがわせる。

年代別の認知度に大きな差異はない。
しかし、「よく知っている」男性が15%いるのに対して、女性は6%だった。
また、「ほとんど知らない」男性が17%に対して、女性は26%。
全般的に男性の方がLCCに対する認知度が高い。

これは、就航前のメディアへの露出は経済紙が多く、男性の方が目にする機会が多いこと、
そして、男性の方が出張などの移動が多く、より関心も高いためだと考えられる。

世界的に見れば、通常、LCCは長距離より短距離の利用の方が多いが、
続いて、最も重要な、LCCの国内線の利用意向についてだ。

調査によれば、「乗ってみたい」が9%、「安い航空券が取れれば乗ってみたい」が33%で、
トータルで42%が利用に前向きである。

つまり、LCC就航前でも、4割の人達が価格的に「安い」と思えば利用する可能性が高いということだ。

「(既存の航空会社と同じように)目的地に就航していれば乗る」という、
LCCの格安価格自体はあまり意識していない人が21%。

しかし、「しばらく様子を見て決める」という人は25%、「乗ってみたいとは思わない」が12%。
全体の37%の人が、現時点では、利用に消極的だ。

その理由としては、43%の人が挙げた、「なんとなく不安だから」が最も多かった。


JTBは、「LCCという未知のものへの不安がある」と分析しており、
コメントの3割が「安全面が心配」と答えている。

いかに格安であっても安全がないがしろにされてはLCCの存在意義自体が失われてしまう。

利用目的には、「観光」を選んだ人が複数選択を合わせると9割、単独でも7割もあった。
LCCの就航が各地の観光を後押しするに違いない。

希望する運賃に関しては、「既存航空運賃の半分以下」が61%を占めた。
LCCを利用するかどうかは、価格が従来のLC価格の半額以下であることが一つの水準になりそうだ。

LCCを利用することで浮いたお金の使い道については、
「現地滞在の買物や食事などで少し贅沢をする」が55%と、
半数以上が滞在先での消費に使うと回答した。

LCCの利用者がどの程度の購買力を持っているかは未知数だが、
各地の旅館・ホテル、土産物店や飲食店にとっては朗報だ。

一方、LCCの国際線の利用については、「乗ってみたい」が6%で、国内線の9%とさほど変わらない。

しかし、国内線では「安い航空券がとれれば乗ってみたい」という人が33%に対して、
国際線では16%しかいない。

海外に行く場合は、短い搭乗時間や到着地のホテルとのセットなど
諸条件が整えば乗りたいという人も多く、「条件付きで乗りたい人」も合わせれば48%いる。

「しばらく様子を見て決める」が21%、「乗ってみたいとは思わない」が22%で、
両方を合わせると43%になり、国内線の37%よりも多い。

つまり、各国における従来の統計と同じく、やはり、LCCの利用は近距離に分がありそうだ。

また、年配者より若い世代の方がよりLCCに対する利用の意向が高くなる傾向が見られる。
若い頃からLCCの利用に慣れた世代が育てば、現在よりも人の移動が活発化するかも知れない。


◆もはや、「空の鎖国」を続けるわけには行かない!

今まで「空の鎖国」状態だった日本を除けば、海外では、もはや、LCCは当たり前だ。

世界の航空市場における、LCCの座席シェアは、
2001年には7.8%だったのが、2011年には24.3%と、10年で4倍になった。

既に、欧州、北米、南米、お隣の韓国を含めてアジアでは、
LCCが航空市場の3割前後を占めており、さらに成長を続けている。

日本でも、5年後には2割、10年後には、欧米のように3割に達すると見られている。


LCCは、1980年代、航空産業の規制緩和を受けてアメリカで誕生した。

ヨーロッパでも、1992年のEUの航空自由化により、
1990年代に中・近距離路線の国際線を運航するLCCが続々と登場。

その後、90年代後半から2000年初頭には、
アジア、オーストラリア、ブラジルなど中南米でもLCCの起業が相次いだ。

今や世界の航空業界においてはLCCが主流となりつつある。

2010年の世界の航空会社の国内外の旅客数を見ても、
1位はアメリカのLC「デルタ航空」だが、
2位はアメリカのLCC「サウスウエスト航空」、
5位にはアイルランドのLCC「ライアンエアー」が入っている。

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(左)サウスウエスト航空 (右)ライアンエアー

国際線だけの旅客数の1位は「ライアンエア」、
3位はイギリス・ロンドン近郊のルートン空港を拠点とする「イージージェット」がランクインするなど、
LCCは上位を占めるまでに成長している。

収益性の高さから、ヨーロッパでは「ライアンエアー」の株式の時価総額がLCの「ルフトハンザ」を逆転し、
アジアでもマレーシアのLCC「エアアジア」がLC「マレーシア航空」の2倍近くとなった。

また、ブラジルのLCC「ゴル航空」が、
2006年に破綻したナショナルフラッグの「ヴァリグ・ブラジル航空」を傘下に収めるなど、
LCCの中には時価総額が大手のLCを上回り、歴史ある大手LCを買収することも珍しくなくなって来ている。

日本は飛躍的な経済成長を遂げているアジアに位置する。
2015年にはアジアの航空旅客数は10億人に達すると予想される。

アジアからの観光客やビジネス客を呼び込むためにも、もはや「空の鎖国」を続けるわけには行かない。


◆「格安」(ローコスト)のからくりとは?

従来の大手のLCの主要な顧客ターゲットは、
ファーストクラスやビジネスクラスの座席を購入できる富裕層や
官公庁の職員や大企業の社員の業務出張のための移動、
あるいは旅行代理店が企画・集客するパックツアーによる団体旅行であった。

これに対して、LCCは一般の大多数の個人の観光や帰省のための移動や
価格に敏感な中小企業を主なターゲットとしている。

このため、時間短縮や利便性や快適性ではなく、とにかく価格を押えることに主眼が置かれている。

乗客の安全を維持しながら、従来よりコストを大幅に削減するための手法には限りがある。

それらの積み重ねと巧拙こそが、LCCビジネスの成功の鍵であり、ビジネスモデルそのものだ。

以下、コスト削減の手法をつまびらかにしたい。


まずは徹底した運航コストの低減である。

そのために、使用する航空機の機種を可能な限り1機種に統一し、
航空機メーカーから同じ機種を大量に一括購入して、
金融機関や商社からのリース契約にすることで機体コストを抑える。

また、部品と機材の共通化によって整備の労力と時間を省く。
そして、統一化によって、パイロット、客室乗務員、メンテナンス要員の訓練コストを最小にする。

大手のLCが乗り入れている混雑した大空港をできるだけ使用せず、
大都市周辺の混雑していない地方の中小空港(第2次空港)に発着する。

また、大空港を起点に小空港をネットワークするハブ&スポーク方式ではなく、
空港同士を直接結ぶポイント・ツゥ・ポイント方式で旅客を輸送する。

同じ空港を使用する頻度を高め、定時運航によって空港の駐機料を最小にする。
空港では設備を簡素化したLCC専用ターミナルを利用し、整備設備は自社で持たずアウトソーシングする。

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人件費も聖域とせずコストダウンを計る。
飛行訓練にかかるコストを削減するために既に資格を持つパイロットを中途採用する。

機内清掃は乗務員自身も行い地上要員を最少にする。

また、乗務員の訓練を無給または有償にし、乗務員の制服や靴、バッグなどの備品を有償にする。
社員向けの無償や割引の航空券を廃止し、他の航空会社と相互の社員に対する便宜提供の提携も行わない。

次に重要となるのが乗客サービスの簡素化だ。
搭乗の際にはボーディングブリッジを使わず、
滑走路脇に沖止めした航空機にタラップを使用することで施設使用料を軽減する。

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また、座席指定を廃止して早い者勝ちの自由席にする。
あるいは、座席指定を有料化したり、座席位置により価格差を設ける。

座席ごとのビデオや音楽放送、機内誌、新聞、雑誌などの機内エンターテインメントを無くす。
機内食や飲料は有料にするか簡素化。毛布や枕は有償にする。
預かり手荷物の重量と大きさによる無償の範囲をせばめ、有料の荷物を増やす。

座席をエコノミークラスだけにし、前後のスペースを詰めて座席数を増やす。
座席シートは布ではなく掃除しやすい合成皮革張りにする。

また、航空券の販売方法を抜本的に変えることで経費を低く押えている。
まず、チケットは購入時期を問わずキャンセル不可だ。
購入に際しては、乗客が自分自身のパソコンや携帯電話からインターネットを通じて直接予約する。

ライアンエアーなどはチケットを自分でプリントアウトして持って行かなければ印刷手数料がかかる。

基本的には旅行代理店を経由せず販売手数料を省き、
マイレージサービスのような旅客向けの航空会社のアライアンスには加入しない場合が多い。


◆「価格的距離」の変化で商圏地図が塗り変わる!

LCCが消費者にもたらす変化として想定すべきことは、「価格的距離」の変化だ。

距離には、時間的距離、心理的距離もあれば、価格的距離もある。
LCCの本格就航によって、価格による距離感の変化が起こり、地図が塗り変わるに違いない。

例えば、ヨーロッパでは、早朝割引の約500円で、ロンドンからいくつかの都市に行ける便がある。
アメリカでも、市内バスよりも安く、他の州に飛ぶ便もある。

日本でも、早晩、そういった時代が来る。

例えば、東京都内をタクシーや自家用車で移動するより、福岡や札幌の方が安く行けるようになったり、
ソウルやクアラルンプールに行く方が安上がりという時代が来るのだ。

事実、客の込み具合で幅があるものの、スタートしたピーチ・アビエーションの
関空から福岡までの価格は、3780円~1万1780円だ。

同路線のANAやJALでは2万円はするし、新大阪~博多間の新幹線のぞみ指定席で1万5千円はする。

それが、もし3780円で移動可能になれば、タクシーを利用する感覚で行き来することになる。

羽田空港から飛べば2万円かかるところが、成田空港からならば8千円で行けるならば、

価格に敏感な人にとっては、成田からの方が価格的距離は近くなる。
浮いた1万2千円でやれることや買えるものはたくさんある。

古今東西、人の移動こそがビジネスの勝敗を分けて来た。
変化はチャンス!LCCは各地の商圏マップを書き換えるに違いない。

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