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第53回 『総額表示義務に対応できていますか』

第53回 『総額表示義務に対応できていますか』

 スーパーマーケットを経営する伊藤社長が、賛多弁護士のところへ新年度の挨拶に訪れました。
 
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伊藤社長:毎年4月1日は、新年度の初日ということもあって、様々な制度が変わりますね。今年は特に大変でした。
 
賛多弁護士:そうですね。事業者が消費者に対してあらかじめ価格を表示する場合には税込価格を表示する義務、いわゆる総額表示義務が本格的に始まりました。伊藤社長のスーパーマーケットは、税込価格の表示に対応することができましたか。
 
伊藤社長:はい。一応、店頭の商品については税込価格を表示することができました。しかし、税込価格を表示させるために、全てのポップを点検したり作り直したり、とてもコストのかかる作業となりました。そもそも、なぜ総額表示義務が実施されるようになったのでしょうか。
 
賛多弁護士:総額表示義務が実施されたのは、消費者の利便性に配慮するためです。例えば、買い物をする際、税抜価格のみの表示ではレジで会計をするまで最終的に支払う価格が分からず、不便です。また、同一の商品やサービスであったとしても、税抜表示のお店と税込表示のお店が混在していると価格の比較がしづらいですよね。
 
伊藤社長:言われてみれば、そうですね。総額表示をすることは、消費者であるお客様のために必要なことなのですね。しかし、今まで税抜価格を表示していたにもかかわらずいきなり税込価格を表示することになると、お客様からは商品が値上げしたという印象を抱かれてしまうのではないかと思い、一部の商品については税抜価格と税込価格を併記するような形にしました。例えば、従来の「チョコレート1個100円(税抜)」というポップの上に「(税込価格110円)」というシールを貼り、「チョコレート1個100円(税込価格110円)」と表示しています。このような表示は問題ないのでしょうか。
 
賛多弁護士:総額表示義務はその商品の税込価格を表示することを義務付けているので、税込価格が表示されていれば、税抜価格が併記されていても問題はありません。しかし、税抜価格をことさら強調することにより消費者に誤認を与える表示である場合は、総額表示義務を満たしているとはいえません。したがって、税込価格を明瞭に表示する必要があります。
 
伊藤社長:なるほど。お店に戻ったら表示を再確認します。そういえば、商品を仕入れる際に仕入業者との間で契約書や請求書のやり取りをしているのですが、それらの書面にも税込価格を記載しないといけないのですか。
 
賛多弁護士:一般的には、それらの書面に税込価格を記載する必要はありません。まず、総額表示義務は消費者に対して商品の販売等を行う場合に義務付けられるものですから、事業者間の取引は総額表示義務の対象となりません。仮に消費者との間で契約書を交わす場合や請求書等を発行する場合においても、総額表示義務は不特定かつ多数の者に対してあらかじめ価格を表示する場合を対象としていますから、あらかじめ価格を表示する場合に当たらない態様で用いられる契約書や請求書は、総額表示義務の対象となりません。
 
伊藤社長:なるほど。安心しました。契約書を締結し直すことや請求書の内容を変えることは、コストのかかることですので。
 
賛多弁護士:そうですね。なお、総額表示義務は、取引の相手方に対して行う価格表示であれば表示媒体を問わず適用されるので、店頭における表示に限らず、チラシやネット上の広告にも適用されることには注意が必要です。
 
伊藤社長:そういえば、総額表示義務には罰則がないようですね。
 
賛多弁護士:はい。しかし、総額表示義務は、「・・・努めなければならない。」という努力義務を課す規定とは異なり、「価格を表示しなければならない。」(消費税法63条)という一定の作為を義務付ける規定となっていることや、平成25年10月1日から令和3年3月31日までの間、事業者による値札の貼り替え等の事務負担に配慮するなどの観点から、総額表示を要しないとする特例が設けられていたことからすると、企業は、罰則がないとしても、対応が求められるといえるでしょう。
 
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 総額表示義務については、消費税転嫁対策特別措置法により、現に表示する価格が税込価格であると誤認されないための措置を講じていれば税込価格を表示することを要しないこととする特例が設けられていました。しかし、同特例が令和3年3月31日に失効したことにより、多くの事業者は対応を迫られたのではないでしょうか。
 将来、税率が変わりうることをも考慮しつつ、できるだけコストを抑えて総額表示義務に対応するために、総額表示義務の適用対象を適切に把握することが大切です。
 
詳細については、下記が参考となるでしょう。
 
・財務省「令和3年4月1日以降の価格表示について」
事業者が消費者に対して価格を表示する場合の価格表示に関する消費税法の考え方
・国税庁「「総額表示」の義務付け」 
 
 
執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 小杉 太一

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経営コラムニスト紹介

鳥飼重和
鳥飼総合法律事務所 代表弁護士

「社長を守ることが、会社を守ることにつながる」との信念で、自由競争社会で最強の武器である法律を活用し、「戦わずして勝つ」経営参謀型の弁護士。

 企業法務の弁護士として、勝訴が困難と言われている税務訴訟で、2008年から10年の3年間で、35事件中25件を勝訴、輝かしい実績をもつ税務訴訟の開拓者。現在は、「変革期の現在、社長と会社を守るには、想定外の事態への事前対応・準備が必要」と、従来からの訴訟中心の紛争解決型ではなく、経営と法務を統合したリスク想定回避型の戦略提案を活動の中心に据えている。
 日本経済新聞社が調査した「企業が選ぶ弁護士ランキング」の「税務部門」の第1回の2013年及び第2回の2016年で、いずれも総合1位。さらに、2017年の「金融・ファイナンス部門」でも、5位に選ばれている。また、世界の法曹界や企業が注目する評価機構チェンバースの2018年弁護士ランキングでは、「税務部門」の筆頭に選出。
 1947年福岡県生まれ。中央大学法学部卒業。税理士事務所勤務後、90年弁護士登録。94年鳥飼総合法律事務所開設、代表弁護士に就任。一部上場企業から急成長のベンチャーまで、数多くの社長と会社の用心棒的経営参謀になっている。
 現職のユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス社外取締役のほか、日本税理士会連合会顧問、日本内部統制研究学会会長などの公職を数多く歴任。
 主な著書:『豊潤なる企業』『社長のための残業時間規制対策』『幸運の法則』『幸せの順番』『新たな税務調査手続きへの対応』『内部統制時代の役員責任』『株主総会の議長・答弁役員に必要なノウハウ』『株主総会徹底対策』など多数。

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