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第95号 BS「格言」 其の四十

第95号 BS「格言」 其の四十

其の四十

資本準備金は金庫にはない

 
 
 
 ずっと昔のこと・・・
 有名な会社の某監査役が、会計士になりたての私にこんな質問をしました。
 「監査役としてどうしても気になることがある。金庫を見ても、あるはずのものがない。どういうことか、説明して欲しい」
 金庫にあるものがないということは、直近の試算表にある現金、それも多額の現金が帳簿の金額と合わないということなのだろうか・・・
 それならもっと大騒ぎをしているはずです。
 しかし、会社は静かなものです。
 
 よくよく聞いてみると、監査役の疑問の概略はこんな感じだったのです。
 バランスシートの純資産の部(通称、自己資本や純資産といいます)に資本準備金というものがあります。
 会計の世界ではなく、通常の世界で準備金と言われれば、どこかにお金があると思うことは不思議ではありません。
 準備金といういくらだから、資本金とは違うことは分かっている。また、利益準備金ではなく、資本の準備金だから、準備金は金庫にあるはずだというのです。
 真顔で質問をされたため、笑うに笑えず、何をどのように説明すれば理解してもらえるか、その時は、本当に悩みました。
 監査役が会計(単純に、簿記)の知識があればこのようなことは悩まないはずなので、回答が難しいのです。
 資本準備金は資本金と同じことで、出資者からの払込金のうち、資本金として処理しなかった払込金を資本準備金とします。
 資本金の見合う現金がないことを理解しているのであれば、監査役もすぐに分かるはずでしたが、「資本金はどこへ行った?」となった為、簡単に次のような説明をして見ました。
 
 ①1,000万円を出資すれば、バランスシートは現預金が1,000万円と資本金1,000万円となり、この段階では、資本金に見合う現金預金は存在します。
 
 ②1,000万円のうち、300万円を使って商品を購入しますと、すでにこの段階で資本金1,000万円に見合う現預金は700万円になっている為、資本金に見合う現預金はすでにありません。
 
 ③-1 300万円で買った商品を800万円で販売して入金があれば、資産は、現預金が700+800=1,500万円になり、商品は0円、資本金は1,000万円のままです。
 これでは、バランスシートがバランスしません。
 借方の資産が1,500万円で、貸方が資本金1,000になっているからです。
 差額は500万円ですが、この金額は、販売をした利益になります。つまり、利益が500万円増加したため、財産も500万円増加したことになります。
 
 ③-2 300万円で買った商品が売れずに廃棄したとすれば、資産は、現預金が700万円のままになり、商品は0円、資本金は1,000万円のままです。
 これでは、バランスシートがバランスしません。
 借方の資産が700万円で、貸方が資本金1,000になっているからです。
 差額は300万円ですが、この金額は、販売できなかった損失になります。つまり、損失が300万円増加したため、財産も300万円減少したことになります。
 
 このようなお話しをした結果、資本金に見合う現預金はないことがやっと理解できたのです。
 資本金と資本準備金は出資金を振り分けたものです。
 出資金は多く欲しいが資本金にはしたくないということから、資本準備金ができたと考えればいいと思います。
 資本金が1億円を超えれば、大企業になり、資本金が5億円以上は公認会計士の監査が必要になります。
 ですから、2億円の出資があっても、資本金を1億円にして、残りを資本準備金にすることになります。
 4億9千万前後の資本金が多いのも、資本金が5億円以上にならない為です。
 
 さて、財産はバランスシートでは純資産の部に表示されますが、多くの経営者は、財産を増加することを忘れているようです。
 日々、忙しくしていますと忘れがちですが、経営目標として、期首の財産より期末の財産を増加させることがあるはずです。
 財産増加には2つ方法があります。ひとつは、出資による財産の増加です。もうひとつは利益です。
 財産は、バランスシートでいいますと、資産から負債を差し引いたものです。
 この金額を毎年、増加させることこそ目標だという経営の原点に戻ることも必要になります。
 経営は結果といわれます。その結果とは、損益計算書ではなく、やはりバランスシートです。
 では損益計算書は何かといいますと、バランスシートという結果を導くためのパフォーマンスを表しているといえます。
 
 ところで株式会社の資本金が1円で設立できるようになった現在では、資本金の多寡は何も意味を成さないものになりました。
 この点は注意が必要です。今でも、求人誌等に、会社の資本金が掲載されていますが、資本金が大きいから安心ということは絶対にないため細心の注意が必要になります。
 
 さて、資本金1,000万円のA社と資本金100億円のB社ではどちらが安全でしょうか。
 通常は、資本金の大きいB社という答えが返ってきます。しかし、純資産を見た場合、A社の純資産が50億円、B社の純資産も50億円ということも実際にあります。
 A社は、長年の利益の蓄積により、資本金は少額にもかかわらず、多額な純資産、つまり財産があります。これに対して、B社は、資本金より純資産の金額が少なくなっています。
 B社は債務超過(資産より負債が多いことをいいます)ではありませんが、資本金の100億円を純資産が下回っており、出資者の出資額であります資本金を食いつぶしていることになります。
 
 赤字会社の場合、資本金が大きくても、このような状態になることがあります。ですから、資本金が大きいから安心ということではなく、利益を計上しているかどうかを判断した上で、資本金の金額を見たほうがより賢明だということになります。
 
 
 
 
 

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経営コラムニスト紹介

ビジネスミート代表 野田宜成氏

海生裕明氏 公認会計士
     『連結バランスシート経営で会社を強くする』著者


 中小企業の社長に、社長個人家計と会社のバランスシートを合算する「連結バランスシート経営」を提唱する異色の公認会計士。

 大学卒業後、数種の仕事を経て、経営コンサルティング会社を設立。1985年、公認会計士試験に合格、3年間大手監査法人にて監査実務を経験する。

 2000年、IT企業のCFO(最高財務責任者)に就任。上場を目指すもITバブル崩壊により断念。2006年、証券会社において株式公開引受及び投資銀行担当役員を経て、現在、主に中小企業に対して再生支援、売上増加、資金調達、事業承継、連結バランスシート経営等のアドバイスをおこなうとともに、全国各地で講演・セミナーをおこなっている。1958年生まれ、学習院大学卒。

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