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人間学・古典

第6話 「真の国際化とは…」

令和時代の「社長の人間力の磨き方」

 「東京オリンピック」の開幕も近い。これをきっかけに、各業種で「インバウンド」と呼ばれる海外のお客様との交渉が増えることは明白だ。「グローバル化」「国際化」と叫ばれるようになって久しく、各社ともに語学能力の鍛錬は元より、多くの努力をしている。

 企業の人事研修などで必ずお話するのが、「真の国際化とは何か?」との話題だ。あくまでも私見に過ぎず、異論や反論があるのは百も承知、二百も合点の上である。私が考える「国際化」とは、語学能力を第一に置いたものではない。「自国の文化に誇りを持って、相手に伝えること」から国際化が始まるのだ、と考えている。この伝で行くと、「相手に伝える」方法の語学を含んだコミュニケーションは二番目になる。まずは、「自国の文化」を知り、それに誇りを持っていただきたいのだ。それを相手に伝えるには、身振り手振りもあれば、最終兵器として「絵」を描く手もある。

 この話題を持ち出す時、私の頭の中にはある光景が浮かぶ。

日本のビジネスマンがイギリスへ出張し、フランス、ドイツのメンバーと4人であるプロジェクトを無事に終了させた。夕刻、パブへ繰り出し、「お疲れ様の一杯」となる。互いの仕事ぶりを褒めるのは最初のジョッキが空くまでの間ぐらいか。各自が好きな酒に切り替えた頃には、お互いにお国自慢が始まる。

 仕事の都合で、明日はもう帰国するという日本人に、「せっかく来たのだから少し休暇を取り、大英博物館は観てくれよ」と言うイギリス人の傍らで、「美術ならルーブルだ。何しろ、ルーブルには…」とフランス人が語り始める。黙って耳を傾けていたドイツ人は、「美術だけが芸術ではない。我がドイツの風光明媚な景色や特徴のある城の美しさ」を、と。

3人の親切な海外の友人に対し、「申し訳ない」と断った我が同胞に、今度は質問の矢が向けられる。「ところでYouの国には凄いものがたくさんあるね。それについて聞かせてくれ」、と。

 

「そうそう、あのナイスなパフォーマンス、『歌舞伎』は『能』とどう違うんだい?」

「それも知りたいが、何と言っても『浮世絵』の精妙さはなぜなんだ?」

「日本の昔の建築は『木と紙だ』と言われるが、1000年以上も倒れない塔があるそうだね」

 

 こうした尽きない日本への興味に対して、「いやぁ、どうも、その…」となっていただきたくない。

 そのために、「ビジネスマン応援歌」の意味を込めて、日本の伝統や文化についての本を書き、お話をして歩いている。どの分野も専門家になる必要はなく、「教養」「素養」として、相手を納得させられる3分の話ができれば充分だ。そのために、間口を広く、上澄みだけをたくさん知っていただくようにと考えている。

 海外経験が少ない私が偉そうなことを言える義理はない。僅かな体験から言えば、昨年、中央アジアの「カザフスタン共和国」の招きで「第二回世界劇場フェスティバル」なる催しに参加し、先方の要望で「日本の古典のパフォーマンス」を見せた。日本神話をベースに、海外で喜ばれそうな「芸者」「侍」「忍者」「獅子」などを登場させた約90分の舞台だ。

 困ったのは「台詞」だった。日本語で書いたものを日本で英訳していただき、それを今度は「カザフ語」に訳す。しかし、俳優陣は日本人でカザフ語が喋れないため、「字幕」を出すことにした。

 考えた挙句、台詞は極力少なくし、字幕がなくてもわかるような内容にした。何もかも未知の場所で、劇場の様子を初めて観たのは、到着した日の夜中、本番の三日前のことだ。しかし、ギリギリまで稽古を重ねながら、「行ける!」との確信を得た。理論的な説明はできないが、長年舞台に携わってきた「勘」とでも言おうか。

 とは言うものの、それは「空元気」で幕が開いてみるまでは何とも言えない。幕が開いてまず感じたのは、観客は字幕をほとんど見ていないことだ。しかし、笑ってほしいところでは笑い、拍手が欲しいところでは見事に手が来た。これは、舞台で懸命に汗を流す俳優陣の力である。演出家が偉そうに威張っていられるのは稽古場までで、幕が開いた瞬間に、舞台の成果はすべて俳優のものになる。それでいいのだ。

 立ち見が80人も出た劇場の熱気はすさまじく、途中で携帯電話を取り出し、舞台の写真を撮る観客も多い。それも「よし」と思った。むしろ、たった一回限り、幕が降りたとたんに雲散霧消する舞台の想い出を、持ち帰り広めてくれるは嬉しいことで、少しは「日本文化」の理解に通じるかもしれないとの期待も持った。

 14時間半をかけて到着し、三日前に初めて現場を見るような過酷な状況でも、いくつものことを教えてくれた。「相手に過剰な恐怖は無用」ということだ。国に応じた「用心」は必要だ。しかし、どこかで覚悟を決めて、相手の懐へ飛び込んでしまえば、意外とどうにかなるものだ。

 とは、いささか楽天的に過ぎたかもしれない。

 

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