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挑戦の決断(13) 圧倒的な敵と戦う(内乱最終決戦でのユリウス・カエサル)

挑戦の決断(13) 圧倒的な敵と戦う(内乱最終決戦でのユリウス・カエサル)

 逆転の秘策あり
 古代ローマの英雄、カエサルの勝利の方程式が、決然とした判断と、先手必勝の行動原則、巧みな人身掌握術にあることを前回紹介した。現実にカエサルが類まれなリーダーシップを発揮し圧倒的な兵力差を跳ね返して勝利した戦いぶりを見てみよう。
 ルビコン川を渡ってローマに戻りイタリアを制圧したカエサルは、ギリシャに逃亡した抵抗勢力の元老院・ポンペイウス派を追って海を渡る。対岸のデュッラキウムで敵を包囲したカエサルだが、兵糧が尽きて包囲網を破られ手痛い敗北を喫した。ポンペイウスが追撃をためらっているすきにカエサルは廃残の兵をまとめてギリシャ内奥部へと進軍する。兵糧を調達しながら立て直しを図り、敵をおびき出し最終決戦の機会をうかがっていた。
 ゆったりと追撃するポンペイウスは勝利を確信していた。なにしろ兵力は歩兵だけでもカエサル軍22,000に対してポンペイウス軍は45,000と二倍以上だ。さらに騎馬兵力ではカエサル1,000騎に対しポンペイウスは七倍の7,000騎と圧倒的な有利を保持していた。
 両者はパルサルスの平原で向き合った。ポンペイウスは本陣で元老院議員たちを前に、「歩兵戦が始まる前に勝負を決して見せる」と豪語し、勝利を疑わない議員たちは軍議もそこそこに戦後の人事の論争に熱中する始末だ。
 しかし、カエサルは兵士の士気を鼓舞するとともに勝利への秘策を練っていた。
 
 敵の主戦力を非戦力化する
 ポンペイウスは軍議で次のような戦術を披露した。
 〈数的に不利なカエサルが先に歩兵を突撃させるだろう。圧倒的な味方歩兵がこれを受け止めている間に、左翼に配置した騎馬隊を突進させて敵の騎馬隊を蹴散らして背後に回り込み敵陣を撹乱する。あっという間に戦闘は終わる〉
 定石通りである。遡(さかのぼ)ること300年、マケドニアの英雄アレクサンドロスは、ダリウス王のペルシャ軍と合いまみえたイッソスの戦いにおいて、同様に騎馬軍団を背後にまわり込ませ、四倍の敵を壊滅させた。
 この戦訓をポンペイウスもカエサルも共有している。ポンペイウスは教科書通りにそれを実行しようとする。〈勝利は教科書からは生まれない。現場の状況と知恵の勝負だ〉と考えるカエサルは敵の意図を見抜いて巧みな対抗策を編み出す。
 ローマ軍の戦い方には型がある。通常は、軍団を前後三列に配置する。カエサルは四列に配置して四列目を最初の突撃に参加させず後方に取り置いた。温存部隊である。さらに屈強なベテラン兵2,000人を選りすぐって重装歩兵一個軍団を編成し、右翼に配置した弱小の味方騎馬軍団背後に隠した。
 戦闘開始のラッパが鳴り響き、カエサル軍の前三列が突撃する。ポンペイウス軍は動かずこれを受け止める。「してやったり」とポンペイウスは騎馬軍団7,000騎に突撃の合図を送る。迎え撃つのはカエサル軍の騎兵わずか1,000騎。シナリオ通りの展開にポンペイウスがほくそ笑む。ところが、、、。
 カエサルの騎馬隊は相手の圧力をかわすかのように左右に位置をずらしていく。そして正面に重装歩兵軍団の厚い壁が現れてポンペイウスがこの戦いの決め手と頼んだ騎馬軍団の脚が止まる。左右には、数は少ないがカエサル騎兵と従卒の軽装歩兵が取り囲み、その輪を徐々に狭めていく。いくら数で圧倒しても動かない騎馬軍団は戦力にならない。檻の中に閉じ込められて槍で突かれ、動ける後方の騎馬兵は散り散りとなって逃げ去った。
 〈敵の主戦力を非戦力化する〉。古今東西、軍事を担当する者たちの勝利への大原則である。それが実現できれば、兵力差は跳ね返せる。軍事だけではない、経済場面でも同じである。
 圧倒的な敵を撃退したカエサル軍右翼の騎馬隊とベテラン軍団は、その勢いで突進し、こう着状態の主戦場の側面から背後に回り込む。戦闘は半日に及んだが、カエサルは、戦況が押せ押せになったところで、虎の子の第四列を投入する。疲れ切った先発隊同士の戦場に体力十分の兵力が加わったことで、持ちこたえられなくなったポンペイウス軍は多くの屍を残して一斉に背を向けて潰走する。勝負あった。
 
 戦闘意欲を引き出す
 ポンペイウスは、勝敗が決着する前に頼みの騎馬軍団が壊滅するや、陣営に逃げ込み、さらに兵士たちを置き去りにして逃亡する。落ち延びた先のエジプトで殺された。
 一方、カエサルは常に兵士たちとともにあった。将と兵が一心同体であった。
 決戦直前のデュッラキウム包囲線の敗北でカエサルは2,000の兵を失っている。敵に背を向ける兵が続出し、多くの軍旗を奪われた。軍規では死罪ものである。「今回の敗北はお前たちの責任だ」と言い渡したカエサルに、ベテランの指揮官たちは処罰を望んだ。しかしカエサルは言った。
 「全員が受けた損害を勇気で償う努力をせねばならぬ」。処分は、軍旗放棄者の譴責と降格に留めた。ベテラン兵士たちは、カエサルによる赦しをかえって恥じ、名誉挽回の機会を求めた。
 決戦を前にカエサルは強大な騎馬軍団を迎え撃つベテラン軍団兵たちを督励した。
 「勝利か敗北かは、お前たちの勇気ひとつにかかっている」。これで燃えない者はいない。兵士たちは恐怖を乗り越え武者振るいしながら圧倒的な敵に立ち塞がった。この時点で偉大なるリーダーはすでに勝ったのである。
 
 (書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com
 
 
 
※参考文献
『内乱記』カエサル著 國原吉之助訳 講談社学術文庫
『カエサル』長谷川博隆著 講談社学術文庫

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経営コラムニスト紹介

宇惠一郎

宇惠一郎氏  元読売新聞東京本社国際部編集委員

 早稲田大学卒業後、商社を経て、1978年読売新聞社入社。社会部、外報部、95~98年ソウル支局長。帰国後、解説部次長、2007年編集委員。2011年4月〜2012年8月ソウル支局長(専任部長)、2012年9月編集委員、現在フリージャーナリストとして活躍している。

 主な著書と受賞歴
「20XX年地方都市はどう生きるか」
「やさしい政治家 早稲田出身国会議員54人の研究」
「理解と誤解 特派員の読む金大中の韓国」
  1997年「第1回 サムスン言論大賞特別賞(海外部門)」受賞


連絡先 ueichi@nifty.com
 

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