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第28話 自分自身が外に打って出ること

北村森の「今月のヒット商品」

 六次産業という言葉、耳にしたことがあるかと思います。農業や漁業など(一次産業)の従事者が、育てたり獲ったりしたものをそのまま卸すのではなくて、それらを使った商品をみずから開発(二次産業)。そして自分の手で売る(三次産業)。1×2×3だから「六次」産業という呼称なんです。

 

 野菜や鮮魚をそのまま市場などに売るよりも付加価値をつけやすいわけですから、全国各地の農家や漁師の方々が、商品開発に臨んでいます。

 

 ただですね…そうした六次産品、必ずしもヒットしていない状況です。売れているのはごく一部と言っていいかもしれません。なぜか。厳しい言い方をすれば、どうしても似たり寄ったりの商品になりがちで、しかも商品の存在を広く伝えることにも苦労しているところが多いからでしょう。見本市などを尋ねると、その多くは、ジャムにジュースにドレッシング。いや、実際に口にしてみると、決して商品は悪くない。でも売れないんです。

 

 そうした厳しい状況は、果たして打開できるのか。先日、ひとつのヒントになりそうな商品に出逢いました。

mori28 1.jpg

 この画像がそれです。商品名は「エアリーフルーツ」といい、山梨県山梨市のTakano Farmの手になるものです。

 

 これ、フリーズドライのフルーツです。農園主が育て、みずから摘んだ果物を、いったん冷凍して、それを乾燥させます。すると、水分が抜け、とても軽やかな口あたりの商品となります。現在、このエアリーフルーツには3種類あって、シャインマスカット、桃、黒ぶどうがラインナップされています。値段はいずれも1000円強。

 

 クラウドファンディングで340万円以上を集めるなど、十分に話題を呼んでいますし、この秋には、全国の新聞社が手がけ、地域産品に光をあてるプロジェクト「47CLUB」において「こんなのあるんだ!大賞2019」関東ブロック代表にも選ばれています。

 

 ここまでの流れを見ても、ちいさな事業者が手がける六次産品における、数少ない成功事例と言っていいかもしれません。

mori28 2.jpg

 実際に食べてみると、ただ軽やかなだけではなく、官能的なまでの味わいがあります。生で食べるのとはまた違った魅力がちゃんとある。私、これまでいくつものフリーズドライフルーツを口にしてきましたし、別の農家さんからの相談を受けたこともありますが、Takano Farmのものは明らかに水準が違う。

 

 どうしてなのか、農園主に尋ねてみました。

 

 理由はシンプル。「加工をすべて内製にしているからでしょう」。

 

 それだけで変わるんですか。「はい。加工先企業の予定に合わせる必要がなく、『まさに今日だ』という完熟を迎えた日に果物を摘んで、すぐに自分で加工できます。それが味を大きく左右しますね」

 

 さらには、試行錯誤の結果、「じっくりと時間をかけて乾燥させると、おいしくなるというコツをつかめました」。やはり自分で、というところは大事なんですね。そして、こうした努力や創意は必ず、商品の出来栄えに反映させるという事実も忘れてはならない。

 

 もうひとつ、このエアリーフルーツの価値が、なぜ広く伝わりつつあるところまで来たのでしょうか。

 

 「つくり手である自分が、みずから外に出て行かねば、何も始まらないと思いました。そこからです」

 

 コンテストがあれば応募し、見本市には(たとえごく小さなブースでも)積極的に出展したといいます。ちいさなことかもしれませんが、これ、実は大きいんですね。

 

 「何かをつくりさえすれば売れるとか、パッケージデザインをおしゃれにすれば成功するとか、そんなに簡単なものではないと気づいたんです」

 

 どうやって? 「実は私も、過去に、ジャムやジュースを考えなしにつくったことがありました。結果は惨敗です」

 

 その失敗を通して、自分自身がつくり手としてだけでなく伝え手としても動かねばならないと痛感したと聞きました。そして、実際、3度目の六次産品開発だったエアリーフルーツを完成させ、みずからが外に打って出た。

 

 そんなの当たり前、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんね。でも、あまたの六次産品のケースを見渡すと、自分が顔を出し、つくり手の息遣いをもしっかりと伝えようと奮闘している事例は、そう多くない。

 

 つくってからが肝心なのだ、と改めて感じさせてくれた商品でした。

 

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