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第73回  マニュアル、ノルマ、クルマもない。 だから「売れる」日本一のディーラーの謎。 「ネッツトヨタ南国」

第73回  マニュアル、ノルマ、クルマもない。 だから「売れる」日本一のディーラーの謎。 「ネッツトヨタ南国」

 ◆ネッツトヨタ南国◆ 


「マニュアル、ノルマ、クルマもない。だから「売れる」日本一のディーラーの謎」

 

広々としたショールーム内。しかし、新車発表会などなければそこには一台もクルマが置かれない

毎週のように実施されるイベントはすべて社員たちが実演。自ら楽しむことが、伝播し、場の吸引力になるわけだ

   
 
こちらもイベントの様子。近所の方々を中心に多くの人が参加。店を中心としたコミュニティができているわけだ

 


「全国300社のトヨタ系ディーラーで、12年連続の顧客満足度日本一!」「休日は1日500人以上、平日でも100人は来店し、年間10万人以上もの人が訪れる」「安売りしないのに周辺地域のみならず、他県でも『クルマを買うならココ!』という人がいる」――。
クルマ離れが進み、元気が無いカーディーラー業界ながら、驚くほどの好調を誇るのが高知の『ネッツトヨタ南国』だ。
秘密は、同社に業界の当たり前が“無い”ことにある。

●「餅つき」ができる店
まずはショールームに「クルマが無い」。
 

普通なら新車がズラリと並ぶはずのショールームには一台もクルマが無い。代わりに置かれているのは、ホテルのラウンジのようなスタイリッシュなテーブルと椅子だ。おもてなし専門のスタッフが来場者に運ぶ飲み物は本格的なドリップコーヒーや紅茶、ココアなど約10種類。もちろんすべて無料だ。250円出せばモーニングセットまで頼める。試乗車も全車種を用意しているが、すべて外に置いている。さらにクルマが無い分、広くなった店内では毎月のように様々なイベントが開催される。「餅つきイベント」「ミニコンサート」「ミュージカル仕立ての新型車発表会」など実に多彩で楽しげだ。
 

クルマの購入、買い替え周期は、たいてい十年に一度ほど。しかしネッツトヨタ南国には「リラックスできるからコーヒーを飲みに行きたい」「イベントに行って、あの元気なスタッフに会いたい」と日常的に訪ねたい誘因が揃っているわけだ。事実、毎日のようにコーヒーだけ飲んで帰る近隣住人もいる。休日のイベント時は、多い時で1日1000人もの人を集めたこともあるという。
 

もちろん、集客数が販売数に直結するわけではない。

そこで効いてくるのが、営業マンに「ノルマが無い」ことである。
 

●互いに協力しあえるしくみ
営業マンに厳しいノルマを課しているカーディーラーは多い。しかし、市場の拡大期ならばそれでいいが、パイが縮小している中でのノルマによる競争は、顧客の取り合いになりがちだ。「自分の成績をあげるためには、他人の協力などしないほうがいい」と思う。また過剰な売り込みや、オプション商品の売り込みなどにも繋がりがち。結果として、会社から顧客が離れていくわけだ。
 

「また、担当者が顧客を抱え込むようになると、たとえお客様になっていただいても『担当のAさんがいないと、何も分からないのか!』と不満を抱かれるケースも多い。売るためのノルマが、実は機会損失にも繋がるわけです」(同社の人財教育を手掛けるビスタワークス研究所・代表の大原光秦氏)
 

しかし同社の営業マンにはノルマがない。だから仲間同士の連携や情報共有が当たり前のようにできるという。例えば、ある顧客がコーヒーを飲みにきたら「こんにちは、●●さま」と担当者以外でも気さくに声をかける。「クルマに関して相談がある」と言われれば、誰もイヤな顔せずに親身になって応える。しかもカフェのような店内、イベントで活気づく店内だ。自ずと顧客と従業員の距離は近くなる。接触頻度が高くなるほど相手に対して好意を抱くようになる、とされる心理学でいうところの「単純接触の原理」も働くだろう。いずれにしても、まるで親戚同士や友達関係のようにまでお客様と従業員の信頼感は高まる。その結果、「どうせクルマを買うなら、信頼のおけるお店で買いたい!」という気持ちが醸成される、というわけだ。
 

●AKB48のようなカーディラー?
「イベントを外注し“ない“」ことの効果も意味が深い。

同社では週末のイベントはダンスにしろ、餅つきにしろ業者に外注することなく、すべて社員自らが手がける。お客様を「楽しませたい」「喜ばせたい」。そんな思いを社員ひとりひとりが心に宿して演じること。同社では、そんな懸命さこそが見ている人の心に響くと考えているからだ。
 

「外部の専門業者に頼んだほうが完成度でいえば当然高い。けれど、楽しさを伝えて、信頼関係を結ぶことがイベントの目的ですからね。日々、がんばる姿をみてもらい、またそんな姿は人に共鳴する。『なんか知らないけどここの社員たちをみていたら、オレも明日からがんばろうと思った』という声も多々いただく。そうした場って、また来たくなるものですよね」(大原氏)
 

それは高校球児やアイドルグループのAKB48が、強さや完成度だけじゃなく、がんばっている姿にこそ見ている人は共感し、人気と付加価値を感じさせるのとも似ている。顧客から「ネッツトヨタ南国のファンです。がんばってください」「ネッツトヨタ南国が好きだからよく行ってます」などとファンレターのような手紙が届くのは、こうした繋がりの強さを端的に表す。
 

●人財のために生まれたカタチ
同社がこうした人の魅力で売る戦略、ノルマなどを課さない戦略を選んだのは「従業員がいきいきと働く職場をつくろう」という強いビジョンが創業時からあったためだ。もともと同社グループは高知県内で数件のディーラーを経営していたが、就職では不人気業種。人財を集めるのに苦労し、また、いい人財もすぐ辞めてしまうという悩みがあった。
 

そこで同社はノルマや飛び込み訪問が無いユニークなスタイルをスタート。さらに人財採用も極めてユニークだ。まず学生たちは会社訪問に通う。その回数は5回以上、またインターンシップや職場体験の時間も合わせると数十時間をともに過ごすことになる。この、お見合いのような期間を経て「この人たちと働きたい!この会社に入りたい!」と覚悟を固めたときに、はじめて面接試験が行われるという。場合によっては半年以上かけて面接に臨む人もいるそうだ。
 

「それくらい“本気”で我々のやり方に共感してもらえないと、お客様には伝わりませんからね。またそうして入る人間だから離職率も極めて低い。同業他社に比べたら圧倒的」(大原氏)
 

ところで、同社にはいわゆるクレームもほとんど無いという。接客の失敗や、説明不足などのミスがないという話ではない。しかし、例えばコーヒーをこばしたり、説明が間違っうなどして顧客が立腹しても、日頃の信頼関係や、強い絆があるからこそ最終的には許してもえる、というわけだ。考えてみれば、当たり前のことだ。
 

マニュアルやマーケティングといった「型」ばかりに目を配りすぎると、その根本にある人と人との関係性を置き去りにしがちになるものだ。ネッツトヨタ南国は、そんな形だけの笑顔やサービスが“無い”ことこそが、好業績の本当の理由なのかもしれない。あらゆる市場が縮小傾向にあるいま、あらためて同社の成功要因を振り返る意義は高そうだ。(カデナクリエイト/箱田高樹)

 

◆社長の繁盛トレンドデータ◆

『ネッツトヨタ南国』
高知本店:高知市南川添4-28
TEL:088-884-5110(高知本店代表)
http://www.vistanet.co.jp/

 

 

 

 

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雑誌、書籍、PR誌の編集プロダクション。『月刊ビッグ・トゥモロウ』(青春出版社)、『週刊東洋経済』(東洋経済新報社)などで執筆。その他、PR誌、社内報などの制作を手がけている。著書『小資本で、でっかく儲ける法則』『「イベント」で繁盛店』(同文舘出版)。執筆協力には『大失業時代の勝ち残り経済学』(青春出版社)『とげぬき地蔵経済学』(メディアファクトリー)『かけがえのない「スキル人間」になる』(光文社)をはじめ多数。

株式会社カデナクリエイト ホームページ
http://www.cadena-c.com/


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