自社の競争優位性を保てる「市場層」を攻略する際の最大のポイントは、対象市場の中でベンチマークをされているような影響力の強い企業と確実に取引実績を作ることにあります。
しかし、実際に「商談を確実にまとめる」と言うのは非現実的な事に思われるかも知れません。ところが、前提を変えることで、非現実的なことを、現実的にすることができます。
一般的な企業がおこなう商談は、ターゲット企業を定めることなく、ランダムに接触していきます。電話営業や飛込み営業であれば「数打ちゃ当たる」の論理で”のべつまくなし”に顧客に接触していきます。
これでは、よほどの営業スキルがない限り、高確率の商談をまとめることは不可能です。
顧客は、自社の事を理解した上で最適な提案をしてくれる取引先を望んでいます。
したがって、ランダムに接触するのではなく、アプローチする企業に狙いを定め、しっかりと調査をすることが肝心です。のべつまくなしに営業アプローチをするという前提を変え、対象顧客の狙いを定めて徹底的に調査をし、課題を浮き彫りにした上で、的確な提案に導けるように準備するのです。
ただし、調査と言っても、年商とか、従業員数とか、会社の沿革を調べて、商談の話題にする材料を入手するのではありません。会社のビジョンとか社会的責任も目標、年商推移、ビジネスモデルなど、あらゆる情報源から、その企業の「現在地」と「目標(あるべき姿)」を明らかにし、「課題」を発見することを調査目的にしなければなりません。
そして、その課題解決のために当社は何が出来るのかを明確にした上でアプローチする。この手順を踏むだけで商談の成功確率は飛躍的にあがります。
私はこれを『提案最適化調査』と呼び、営業活動の中で最重要視してきました。
情報源は、「ホームページ」や「業界団体のレポート」またはネット上から検索できるブログや取材記事などから読み取れる「社長の私見」など。また大企業であれば「CSR(企業の社会的責任)」からも「課題」が発見できます。
これらの情報を抑えた上で、「課題を浮き彫りにする質問」を商談の中に組み込むことで、「何が課題で、どう解決すべきなのか?」という共通認識が出来上がり、強い関係性が築けていけます。
ここでのポイントは、課題を押し付けないということです。情報収集を万全におこなっていると、どうしても「御社の課題は・・・」、「現状はこうなっていると思いますが・・・」と、テーマを押し付けてしまいがちです。
関係性が築けていない相手に課題を押し付けてしまうと、大きなお世話だとそっぽを向かれたり、売り込みの匂いが前面に出て、心を閉ざされてしまいます。
したがって、相手の口から「課題」を言わせることが重要になるのです。相手の口から「課題」が出れば、そのまま両者の共通認識として「その課題をどう解決できるか」と建設的な流れにつながっていきます。
そして、その課題解決には当社商品が最適である・・・という商談の動線設計をすることで、クロージングへと導き、商談をまとめて上げていくことができるのです。
課題をお互いで見つけ出したという連帯感が、商談成功率を支えてくれるのですが、商談のシメとなるクロージングは、世間の常識が非常識となっている事もあるので注意が必要です。
個人営業や小型商談なら書籍や営業研修などで学べるクロージング・テクニックは有効に働きます。
しかし、大型商談や高度な提案営業の場合は、逆効果です。アメリカのある統計では、クロージングを多用した商談の成功確率は20%程度、1回だけ行おこなった成功率は60%以上にも跳ね上がっています。
大型商談や相手がプロのバイヤーなどの場合には、下手な営業テクニックは商談不成立へと導くのです。
「共通課題をテーブルに上げ、当社商品がその解決に最適だ」という商談の動線設計が確立されれば、あとは、「一緒にやりましょう」「ぜひお手伝いさせてください」などシンプルなクロージングだけで充分なのです。
勝率9割の商談はとてもシンプル。あとはどこまで深く鋭く追求できるか・・・それが勝敗のわけることになります。