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第88回「コロナの逆風をエネルギーに変えるしたたかさ」ビジョナリーホールディングス

深読み企業分析


ビジョナリーホールディングスはメガネスーパーを中心にメガネ店を展開する会社である。メガネスーパーはかつてメガネのディスカウントで急成長し、上場まで成し遂げた会社であった。しかし、上場後まもなく競合企業によるさらなる価格破壊によって競争が激化し、2000年代後半から赤字が継続して、まさに倒産寸前というか、実質的には倒産状態まで行った会社である。
 
そしてその間に創業家が経営権を手放し、ファンド主導による経営立て直しの過程で、2010年代半ばに招聘した現社長の星崎氏が短期間で見事V字回復を成し遂げた会社である。同氏は大手商社を退職後、複数の小売業を立て続けにV字回復させた実績があり、ファンドに請われてメガネスーパーの立て直しに参画した。同氏の立て直し手法の特徴は、「スピード経営」、「社員の意欲活性化」、「業界慣習にとらわれない独自のビジネスモデルの構築」である。
 
 
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万年赤字企業を安売りから脱却させ、業界他社との差別化のキーとなったのは、目の検査=アイケアの充実と顧客の目に合ったメガネを作る半オーダーメイドであった。他社が20分で行う目の検査を1時間かけて行うことで、本当に顧客の目に合ったメガネを作り、顧客にメリットを感じてもらおうという戦略である。
 
万年赤字から黒字への転換は一時の勢いでできることもある。しかし、企業が未来永劫に成長して行くためには、ビジネスモデルそのものの転換が必要不可欠である。そこで、アイケアカンパニー宣言(2014年6月)をした上で、まずは無料で行っていた検査の有料化を行った。
 
当初、1,000円でスタートしたアイケア検査も、さらに進化させ、現時点においてはリラクゼーション込みで52項目を検査するプレミアム(4,000円)、42項目検査のレギュラー(3,000円)、23項目検査のライト(2,000円)とより充実したものとなっている。この進化したトータルアイ検査では、検査項目を拡充し、夜間視力の測定も行い、生活・年齢に応じたあらゆる顧客の悩みに対応したものとなっている。また色覚特性・ロービジョンにも対応している。
 
これはメガネに限ったことではないが、安さは魅力である。それゆえ、多くの業界においてディスカウント競争が行われる。しかし、同社の成功は同じ品質なら安い方がいいのは当たり前であるが、高品質であれば高くても対価を払う顧客はいくらでもいることを改めて感じさせる例であろう。同社の顧客もその価格に納得している故、客数、客単価とも着実に増加しているのである。メガネ一式の単価も開始当時の36,000円から今第2四半期では平均39,000円ほどになっている。中でも店舗自体が高品質へと転換を遂げた次世代型店舗における客単価は43,000円近くとなっている。
 
このように順調に推移していた業績であるが、2020年の年明けから思わぬ事態となった。それは言わずもがなのコロナ騒動である。メガネの需要自体はコロナ禍においても減るというものではないが、店舗前の人通り自体が途切れ、2020年4月の既存店売上高は18%減まで落ち込むこととなった。その結果、第4四半期のみでは4億円ほどの営業赤字となって、通期でも赤字に転落した。そして、コロナの影響の先行きが読めないこともあって、2021年4月期の決算予想も営業利益は黒字化するものの、わずか20百万円にとどまるという見込みであった。
 
しかし、コロナ対応の施策を矢継ぎ早に行ったこと、前期中に閉鎖見込みの小型店舗の減損を行っていたことなどもあり、収益面では急速に改善するものとなった。その結果、第2四半期までの累計業績は期初計画の5.0%減収、314百万円の営業赤字予想が、8.2%減収ながら471百万円の営業黒字と大幅に上振れることとなった。
 
上期で471百万円の営業利益が出て、通期で20百万円ということはあり得ない。しかし、現時点において会社側では増額修正していない。この背景としてあるのは、コロナの感染者が前回のピークを超える勢いで増えていることがある。現実問題として、店舗前の人通りは2年前との比較では30%減となっている。再び、緊急事態制限が発動され、不要不急な業態の営業時間の短縮の可能性があることを危惧しているためである。
 
もっとも、メガネは外出しなくとも需要自体が減るものではない。また、同社では検査時間が長いこともあり、実際にメガネを作る時には検査から予約が必要である。つまり、密な状況を避けやすいことは、顧客にとっての安心感にもつながりやすい。また、実際の感染者数は去年の4月、5月より増えてはいるが、それが常態化することで、当時のようなパニック的な状況にはならない可能性も大きい。
 
そう考えると、下期にしても前年度のような落ち込みは回避されるものと考えられる。よって、今年度の同社業績は会社計画を大幅に上回って、営業利益ベースで10億円を上回り、過去最高益となろう。しかも、営業自粛によって政府からの補助金収入もあり、経常利益ベースではさらに大幅な利益となろう。そう考えると、コロナ禍は会社にとって危機であることは間違いないものであったが、その危機を乗り越えることでむしろ同社の収益性を高める方向に働いてさえいるものとなったと言えよう。
 
有賀の眼
 
コロナの逆風でさえも前進するエネルギーに変えてしまうしたたかさが同社にはある。これは状況に合わせて瞬時に対応する経営のスピード感の賜物であろう。会社側のこのスピード感の根本的な背景にあるのが、同氏の著書「0秒経営」で本人も述べているように、星崎氏自身の極めて臆病な性格があると考えられる。同書は2018年に発刊された書籍であるが、その中で同氏はインフルエンザを恐れていて、ウイルスやクスリのことは相当研究しており、いざというときのためにインフルエンザの特効薬である「タミフル」を常に持ち歩いていると述べている。そもそもタッチパネルのセンサーに触れるのも恐ろしく、トイレにも触れず、消毒用のアルコールを常時持ち歩いているということであった。
 
今読むと、コロナ禍の今であれば、多少気にする人ならば、アルコールを持ち歩くことに違和感はないが、コロナ前でアルコールを持ち歩いていると聞けば、やや変人という風に感じたかもしれない。
 
しかし、そんな性格だからこそ、企業経営者にはうってつけなのではないかと思われる。つまり、不安で、不安で仕方ないので、これで安心ということはなく、次々と手が打てるのである。楽観的な人にはなかなか難しい対応かもしれないとつくづく思うものである。

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