第53回 ギフト市場の勘所を押さえて、目を見張る高成長を遂げる「寿スピリッツ」

深読み企業分析

経済・株式・資産

2017.11.10

有賀泰夫(H&Lリサーチ代表/証券アナリスト)
寿スピリッツはギフトスイーツで高成長を遂げている会社である。2017年3月期の売上高は367億円、経常利益が39億円と、経常利益率は優に10%を上回る。
 
同社はほんの15年ほど前までは、どこの観光地にもあるお土産のお菓子を製造販売する会社であった。2002年3月期の売上高は99億円、経常利益は1.5億円に過ぎなかったが、この15年間で売上高は年率8%、経常利益は年率23%の成長を遂げている。
 
 
 
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同社では全国各地のお土産菓子を米子の工場で生産し、当該地域のお土産店で販売していた。たとえば、山梨県であれば山梨のももやブドウを本社のある米子まで持ってきて、お菓子を作り、販売子会社を通じて山梨で販売していた。販売子会社は各地にあり、菓子箱の裏には販売子会社の住所は入るが、製造場所は記載されない。まさか、買う人は米子で作っているとは思わず、裏面を見て住所を確認し安心して買って行く。ただし、他のお土産菓子メーカーもこのような方法で行っているかどうかは不明である。
 
直感的にもわかるように、このようなビジネスモデルは儲かるはずもなく、経常利益率は2%にも満たないような状況であった。現社長の川越氏が当時も社長であったが、何とかこのビジネスを儲かるビジネスにしたいと悪戦苦闘を重ねていたところであった。儲からないのは、ブランドがないためということは明らかである。全国各地の名だたるお土産名をあげるほどでもないが、赤福、萩の月、うなぎパイなどなど誰もが名前を聞いただけでピンとくるブランドがあればおそらく利益率は格段に異なることであろう。
 
そこで同社がとった手段は、とにかくブランド価値のあるお土産を確立させようというものであった。その後さまざまな地域、様々なロケーション、様々なチャネルでお菓子のブランドを立ち上げる中で、いくつかの柱になるブランドが育ってきた。
 
まずはその筆頭が、チーズケーキ「ドゥーブルフロマージュ」で名を成した小樽に本拠を構えるルタオであった。なかなか簡単に言葉では表現できないが、ドゥーブルフロマージュはなめらかで、とろけるような口当たりのチーズケーキである。このように一つ柱ができたことで、ルタオはそのほかさまざまな商品に展開して行く。そして、このセグメントだけで前期に売上高104億円、営業利益14.5億円を稼ぎ出すまでになった。
 
今、まさにそのルタオに迫る第2の柱として勢いよく成長しているのが、シュクレイである。前期の売上高は55億円、営業利益は7.4億円であるが、伸び率は売上が44%、営業利益が71%である。
 
シュクレイはまず東京駅のグランスタで「ザ・メープルマニア」というメープルフィナンシェを成功させる。瞬く間に東京駅で1、2位を争う商品に仕立て上げた。同様にこのシュクレイでは他のブランドも立ち上げ、最近ではNEWoMan SHINJUKU店でButter Butlerというブランドでバターフィナンシェを販売し、JR東日本おみやげグランプリで総合グランプリを獲得している。
 
また、それらのブランドの店舗を主要国際空港でも展開し、インバウンド対応にも抜かりはない。まだ、実は始めて3年ほどであるが、すでに2017年3月期には売上高20億円の実績となっている。
 
このように全国各地でお土産お菓子店を成功させているが、一つの手法を確立させているだけに、次々と連鎖反応的に全国での成功に結び付き、今後とも極めて高い成長を遂げていくのではないかと考えられる。
 
有賀の眼
 
お土産お菓子はいわば、食品だが、日常ではない食品である。つまり、コンセプトの作り方から、売り方に対する考え方まで全く異なるものである。最近、心から感心したのは、同社のギフトという商品性格の捉え方である。
 
同社の川越社長が言うのは、どこでも買えるものはギフトにならないということである。ある商品が、東京でも大阪でも買えてはだめで、それは本当の意味ではギフトにはならないので、ギフトとして育てたいならば、全国展開してはだめで、極論すれば新宿でも銀座でも買えるものはだめだし、販売チャネルも絞る必要があるということ。
 
ギフトを持って行く人の立場から言えば、これだけ苦労して手に入れたという満足感があり、もらった人も心から感謝するというものである。それゆえ、そこに行かなければ買えない価値に対して価格を付けるので物質として価値以上に高くてもいいということになる。企業側から言えば、高い値段を付けてブランドを立ち上げて、うまく行かなかったものは止めればいいだけである。
 
まさに、このことは同社の原点であるお土産お菓子の発想から来ている。かつて同社は東京駅でサンリオのキティちゃんの人形焼を販売しており、大人気であった。それなら、東京だけではなく、全国で販売したらどうなのか尋ねたところ、「東京でしか買えないから売れるのだ」という川越社長の答えに妙に感心したものである。
 
考えてみれば、かつてクリスピードーナッツが日本に入ってきたとき、1店舗しかない時代には3時間待ちでも飛ぶように売れた。私もちょっとすいている時間に行って、会社にお土産として20個ほど買って帰ったことがある。当然、会社でも大人気であった。つまりこれは物質としての商品価値に加えて、待つというむしろマイナスであることにも対価を払っているようなものである。それでも満足感があった。
 
しかし、クリスピードーナッツが日本で全国展開すると、もはや商品としての価値と価格だけを比較することになる。そして、数年もしないうちに、店舗展開の大幅縮小を余儀なくされたのである。
 
今回、川越社長の話を聞きながら、そのことを思い出した。これはどういうことかというと、まさに今の時代は商品の物質としての価値以上に、話題性やイベント性が重要だということである。これはまさにインスタ、フェイスブックなどの全盛に起因している面もあろう。どうしてもまじめに商売と向き合っていると、こういった観点は軽く見がちであるが、もはや日本という国では物はあふれており、物を売る場合にも物質的な充足感だけ考えてもますます商売を難しいものにしてしまうのだから、時には全く異なる観点から眺めてみることも必要ではないかと思われる。

講師紹介

有賀泰夫(H&Lリサーチ代表/証券アナリスト)

埼玉大学生化学科卒業後、新日本証券(現みずほ証券)に入社。1982年から約30年間にわたり、アナリスト業務に従事し、クレディ・リヨネ証券、UFJキャピタルマーケッツ証券、三菱UFJモルガンスタンレー証券…等で活躍。主に食品、卸売業、バイオ、飲料、流通部門を得意とし市場構造やビジネスモデ...>もっと見る

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