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第49話 「再び富士(不二)」

本田宗一郎との『叱られ問答』

成功哲学・人生哲学

2010.05.07

岩倉信弥(本田技研(元)常務 )
80年代、欧州市場での日本車の台頭にドイツの各社は、基幹産業である自動車がカメラやエレクトロニクスの二の舞になっては、と思ったに相違ない。彼らは製品開発に力を入れると同時に「アイデンティティ」の強化を始めた。「ベンツ」という会社は、ドイツという国の歴史抜きには語れない。18世紀末の「産業革命」で英仏に大きく出遅れたこの国は、科学技術を振興し工業立国に向けて懸命となる。結果19世紀末、ダイムラーがガソリンエンジンの自動車を実用化し国威発揚に繋げた。ベンツは「絶対か無か」を唱え「最高である」ことを目指し、歴史と伝統と信頼性を、他のメーカーとの違いとして断然の優位を誇ってきた。今でも「権威主義的」印象を受けるのはこんな理由からだ。別格視されてきたベンツに対し、自動車メーカーとして歴史が浅い「BMW」の印象は極めて希薄で、彼らはベンツへの対抗上、異なるアイデンティティを確立し、彼ら自身のプレゼンスを高めねばならなかった。1970年代の初め、プロイセン貴族のキューハイム社長がBMWの近代化を標榜。「大きいヤツが小さいヤツを食うのではない。速いヤツがのろまなヤツを食うのだ」という彼の言葉が、BMWの目指した方向をよく表している。BMWは、「速さ」、それもあくまでドイツ流の技術と信頼性に基づく速さを追求し、10年がかりでそのイメージを世界に浸透させた。ホンダは、ベンツ、BMW、アウディとは明らかに「別の山」でなければならない。そうなることで再び、ドイツで「ホンダは凄い」と言われ、その評判を世界に拡げることも可能となる。それには何としても、技術力を高め固有性を磨く必要がある。それが、ホンダのアイデンティティ確立に繋がるはずだ。BMWやアウディと同じく、10年を懸けたらホンダにだってできるに違いない。目指す目標を明確に定めて、粘り強く根気よくやるしかない。富士山は日本で一番高い山。それでも世界には、もっと高い山がそれこそ「山ほど」ある。が、4000m前後の高い山が、一際抜きん出て目立って聳えている例は多くはない。しかも富士山のように、誰が見ても「美しい山」となると、そうざらにあるものではない。だから「不二」なのである。「高い、大きい」だけではなく抜きんでて美しい、まさに日本の誇る霊山(やま)なのだ。ホンダは、人の心を清々しく誘う「富士(不二)山」のようでありたい。本田さんの声が聞こえた。

講師紹介

岩倉信弥(本田技研(元)常務 )

1964年、多摩美術大学卒業と同時に本田技研工業株式会社に入社。創業者・本田宗一郎の薫陶を受け、ホンダ社のデザインの担い手となる。 大ヒット車「シビック」のデザイン担当として、カーオブザイヤー大賞受賞など、受賞歴多数。日本の自動車デザイン界の第一人者。 デザイン室の技術統括、本田...>もっと見る

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