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税務対策・法律

2019.01.22

第5回 『辞めた従業員からの団体交渉に応じなければいけないの?』

中小企業の新たな法律リスク

 不動産賃貸業を営む山形社長のところに、先月退職した従業員と地域労働組合の委員長の連名で、未払いの残業代に関する団体交渉の申入書という書面が届きました。山形社長は、このような書面を受け取るのは初めてで、どのように対処すればいいのか困ってしまいました。


* * *

山形社長:先月、ウチを辞めた従業員から書面が届いたんですが、見てもらえますか。

賛多弁護士:拝見します。これは団体交渉を求める書面ですね。

山形社長:団体交渉って聞いたことはあるのですが、具体的にどのようなものなのですか。

賛多弁護士:憲法に書いてあるもので、労働条件について、労働者側が使用者である会社側と協議できるという権利です。

山形社長:この書面には地域労働組合って書いてあります。先生もご存じの通り、ウチの会社には労働組合なんて無いですよ。残業時間の協定などは、社内の従業員親睦会で手続を進めているくらいですから。ですので、ウチの会社の労働組合ではない、この地域労働組合というところとの団体交渉には応じる必要がないのではないですか?

賛多弁護士:残念ながら、御社に労働組合が無くても、この地域労働組合との団体交渉には応じる必要があるのです。

山形社長:どうしてですか?

賛多弁護士:労働組合には、労働者であればだれでも加入することができます。そして、労働組合は、法律の要件に適合さえしていれば、たとえ会社外の労働組合であっても、その会社に対して団体交渉を求めることができ、会社は団体交渉に応じなければならないからです。

山形社長:でも、この従業員は、既にウチを辞めているのですよ。労働者とは現に働いている人を指すのではないのですか。なぜ辞めた従業員からの団体交渉に応じなければいけないのですか。

賛多弁護士:たしかにこの従業員はすでに退職されていますが、未払い残業代の件と言っている以上、在職中の件でもあるため、労働者に該当します。ですので、団体交渉に応じる必要があるのです。

山形社長:団体交渉権というのが労働者の権利かもしれませんが、私が応じる義務はないのでは?無視しておけばいいのではないですか。

賛多弁護士:そのように考えられる社長さんが多いのですが、実は応じないと、義務違反として申立てをされてしまう可能性が高いのです。

山形社長:申立てとは、具体的にどのようなものなのでしょうか。

賛多弁護士:団体交渉の申入れに正当なく応じないと、誠実交渉義務違反の不当労働行為に当たるとして、労働組合から都道府県の労働委員会に対して、救済の申立てをされる可能性があります。救済申立てをされると、通常の裁判のように労働委員会で審査期日が開かれ、会社側も出頭する義務がある他、最終的に仮に命令が出されると、金銭の支払義務や謝罪義務を負う可能性があります。また、都道府県の労働委員会での命令に不服が有る場合は、労働者側も会社側も不服申立てをすることができ、通常の裁判でいうところの高等裁判所に当たる中央労働委員会で審査が継続し、問題が長期化するリスクもあります。

山形社長:何だか面倒なことになりそうですね。しかし、残業代未払いの件は、辞めた従業員個人の問題ですから、百歩譲ってその従業員と話し合いをすることには応じるとしても、関係の無い労働組合には入ってもらいたくありませんね。

賛多弁護士:お気持ちは分かるのですが、辞めた従業員のみと交渉をすると、支配介入としてやはり不当労働行為に該当するとされてしまう可能性が高いのです。労働組合に加入した以上、その労働組合とも交渉せざるを得ないのです。

山形社長:そうですか・・・。では対策会議をお願いします。

賛多弁護士:かしこまりました。

 

* * *

 

 労働者には、憲法上、団結権・団体交渉権・団体行動権が認められており、この内、使用者である会社との間で労働条件について交渉できる権利が、団体交渉権です。労働組合から団体交渉の申入れを受けた場合、正当な理由なくこれを拒否できません。団体交渉を拒否できる正当な理由のハードルは極めて高く、多数回団体交渉を重ねたものの交渉が行き詰まり、かつその行き詰まりが社会通念に照らしてもやむを得ないと認められるような場合でなければなりません。もし団体交渉の申入れを受けた場合、速やかに弁護士等の専門家に相談されることをおすすめします。

 

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 丸山 純平

講師紹介

鳥飼重和(鳥飼総合法律事務所 代表弁護士)

「社長を守ることが、会社を守ることにつながる」との信念で、自由競争社会で最強の武器である法律を活用し、「戦わずして勝つ」経営参謀型の弁護士。  企業法務の弁護士として、勝訴が困難と言われている税務訴訟で、2008年から10年の3年間で、35事件中25件を勝訴、輝かしい実績をもつ税...>もっと見る

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