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経済・株式・資産

2018.12.26

第114話 中国経済の現状と2019年の展望 ~18兆円の高速鉄道投資は中国経済を救えるか~

中国経済の最新動向

 2018年、中国経済は米中貿易戦争という嘗てない厳しい試練を経験し、1990年以来28年ぶりの低い成長に陥っている。2019年は中国経済が成長を持続するかそれとも挫折するか、正念場を迎える年になる。

米中貿易戦争は中国経済を直撃

 今年4月にトランプ政権が仕掛けた米中貿易戦争は、中国経済に大きな打撃を与えた。そのマイナス影響は金融市場と実体経済の両方に現れている。

先ず中国金融市場の影響を見よう。図1に示すように、米中貿易戦争の影響を受け、中国経済の行方を懸念する声が強まり、上海株価総合指数は大幅に下落した。2018年12月21日の終値は2516.52となり、年初来の高値に比べれば、30%も下落した。株価の大幅な下落は投資家の投資意欲を大きく削ぎ、実体経済にも悪影響を波及している。

出所)上海株価総合指数より作成。

人民元対ドルレートにも大きく影響し、止まらない元安をもたらした。図2の通り、今年12月初頭の元対ドルレートは1ドル=6.94元で、年初来6.3%元安、貿易戦争開始の4月より9.5%も元安となっている。大幅な元安は資本流出をもたらし、中国外貨準備高約1000億ドルの減少を招いた。

出所)中国人民銀行の公表により作成。

 実体経済も厳しい状態が続いている。経済成長率は第1四半期6.8%、第2四半期6.7%、第3四半期6.5%と3期連続で減速している。それは内需の低迷が主な原因となっている。

出所)中国国家統計局の公表により作成。

図3の通り、2018年1-11月、設備投資、インフラ投資、不動産投資を含む固定資産投資は前年同期に比べ5.9%増だが、昨年通年の実績7.2%増より1.3ポイント低下となっている。消費も減速している。1-11月社会商品売上総額は前年同期比で9.1%増えたが、昨年の実績10.2%より1.1ポイント減少だ。消費一桁増は2003年SARS(新型肺炎)発生以来の最低記録だ。

求人広告激減から見た雇用悪化

 米中貿易戦争のもう1つの影響は雇用情勢の悪化である。トランプ政権の対中関税制裁を回避するため、外資系企業のみならず中国企業も次々と生産拠点を中国から他国に移転し、企業の求人数の激減に繋がっている。

 中国経済専門サイト「財新網」2018年11月28日付け記事によれば、雇用低迷のため、今年4~9月求人広告数は285万から83万へと202万も減少した。そのうち、中小企業が求人広告減少数の65.6%を占める。

 また中国農業農村部(農林水産省に相当)は12月初旬までに「約740万人の農民工が都市部から地元の農村に戻った」と発表した。これは農村部からの出稼ぎ労働者が都市部で事実上仕事を失ったことを意味し、リーマンショック直後のパターンと似ている。

 中国政府は雇用悪化に歯止めをかけるために、さまざまな対策や措置を取っている。その内の1つは人員削減せぬ企業に対し昨年度納付済失業保険料の50%を返金する新規定だ。もう1つは環境汚染対策の緩和である。これまで環境汚染企業に対し、一律「生産停止」という処分を下したが、今は一部の環境汚染企業に操業を再開させた。中国政府は「環境重視」から「経済成長優先」へ戻ったようである。そのため、昨年大気汚染が劇的改善を見せてきた北京市では、PM2.5が再来し、11月以降大気汚染の日が急増している。

輸出は意外に堅調

 本来ならば米中貿易戦争は中国の輸出を直撃する筈だが、実態は予想外の展開となっている。

2018年1-11月、中国の輸出総額は2兆2700億ドルにのぼり、前年同期比で11.8%増え、昨年7.9%増より伸び率が約4ポイント増加した(次頁図4を参照)。1~10月対米輸出が3,921億ドルで前年同期比13.3%増、対米貿易黒字が2,581億ドルで15.7%増、いずれも史上最高を記録した(次頁図5を参照)。トランプ政権が仕掛けた米中貿易戦争の目的の1つは対中貿易赤字の削減だが、皮肉な結果となった。

それではなぜ貿易戦争にもかかわらず中国の輸出、特に対米輸出が減少ではなく増加したのか?理由は3つ。1つ目は世界経済の堅調な成長基調を維持し、旺盛な外需が続く。国際通貨基金(IMF)によれば、2017年の世界の実質GDP成長率は、2011年以来最も高い3.8%となった。2018年も3.7%成長と予測している。中国の輸出増加は世界貿易の回復の恩恵を受けた結果である。

出所)中国税関統計により作成。

出所)中国税関統計により作成。

 2つ目は米中貿易戦争による中国輸出への直接影響は、実はそれほど大きくなかった。トランプ政権が発動した対中関税制裁第一弾(340億ドル、7月6日発動)と第二弾)(160億ドル、8月23日発動)の上乗せ税率が25%だが、総額500ドルで中国輸出全体の2%しか占めず、その影響が軽微だった。第三弾2000億ドル(9月24日発動)の上乗せ税率は10%だが、人民元対ドルレートが4月以降9.5%元安となり、制裁関税の効果はほとんど元安に相殺されてしまった。3つ目は制裁関税回避のための駆け込み輸出だ。

しかし、仮に来年2月末までの米中合意が出来ない場合、3月2日より2000億ドル分の中国製品に対する米国の上乗せ関税率は現在の10%から25%へ上昇する。来年は今年のような人民元安の余地がないので、中国輸出に対するマイナス影響は大きくなるだろう。

18兆円規模の高速鉄道投資は中国経済を救えるか?

 2019年中国経済はどうなるか?成長挫折するか、それとも持続するか?その不透明感と不確定性が強まっている。現在、中国政府は成長挫折を回避するために、次の5つの具体的な対策を取っている。

①より強力な減税措置及び行政費用の軽減措置
②内需の拡大
 ③有効な投資拡大 例えばインフラ投資、特に高速鉄道投資
④民間投資のハードルの引き下げ
⑤金融の安定化

 上記対策のうち、インフラ投資、特に高速鉄道投資の拡大は「即効薬」と見られる。次頁の表1に示すように、2018年後半から来年末まで、重慶~昆明、広州~湛江など合計27本の高速鉄道の着工が予定され、投資総額は1兆1,091億元(18兆円相当)にのぼる。膨大な高速鉄道投資は経済成長率を0.5~1%アップさせる効果があるという。

出所)中国鉄道総公司の資料及び各種報道記事により作成。

 2018年の中国経済は6.6%成長を保つと予測される。2019年、仮に米中は合意ができ貿易戦争の激化が回避した場合、経済成長率が6.3%を維持できると思う。しかし、米中交渉が決裂した場合、中国経済は6%まで減速することになる。いずれにせよ、来年は中国経済が正念場を迎えるだろう。(了)

講師紹介

沈 才彬(多摩大学 教授)

1944年中国江蘇省海門市生まれ。中国社会科学院大学院修了。同大学院準教授、東京大学、早稲田大学、御茶ノ水女子大学、一橋大学などの客員研究員を歴任。三井物産戦略研究所主任研究員、同中国経済センター長などを経て、08年4月より、多摩大学経営情報学部教授、および、同大学院経営情報学研究科教...>もっと見る

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