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2018.11.07

第16話 ふるさと納税、返礼品に求めたい「2つの条件」

北村森の「今月のヒット商品」

ふるさと納税の返礼品のあり方について、このところ議論を呼んでいますね。総務省としては、寄付金額の3割を超えない額で、なおかつ地元の産品を返礼品とするよう、各自治体に求めています。

また、それとはちょっと別の話ですが、ネットを閲覧していると、なにやら強烈なキャッチコピーの広告が目につきます。「ど〜ん! 驚愕の800g」。これは黒毛和牛の返礼品のアピール。「スゴ盛り〆切間近!」。これには一次産品の盛り合わせの画像が添えられています。言うまでもなく、どちらもふるさと納税へといざなう、自治体のネット広告です。

自治体にとって、ふるさと納税の寄付金を募るのは、この制度がある限り、避けられない仕事といえる側面もあるので、こうしたキャッチコピーをちりばめた広告をかけることは、何ら否定されるものではないと見ることもできます。

ただし……ふるさと納税の制度を生かす、という意味を考えていくと、これでいいのかな、という思いは、私にはありますね。

私が評価するのは、次の2つの条件を満たす返礼品です。

まず「その地に足を向けさせるもの」、次に「ふるさと納税の返礼品以外では、どんなにお金を積んでも体験しえないもの」。

なぜか。肉や魚などの返礼品は確かに人気なのは事実ですけれど、そうした返礼品を求める人たちは、本当にその自治体のことに思いを馳せ、かつ、返礼品を手にした後も、その自治体のファンとして残るかについては、私にはどうしても確証が持てないんです。

おそらく「返礼品ハンター」のような格好で、次はこの自治体の肉、その次はこの自治体の魚、と移ろっていくだけに感じてならない。

どのみち返礼品競争が続くのならば、ふるさと納税制度を生かして、その自治体のファンを獲得するプロモーション施策に、したたかなまでに活用するのが一手ではないか、と私は考えます。

そのためには、前述のように「その土地まで来てもらう」というのは有効な手立てでしょう。そこでお金を落としてもらえるという効果も見込めますし。

そして、わざわざ足を運んでもらうためには、単なるホテル割引券や、施設の優待券では力不足です。そうしたものは、普通にお金を支払えば手に入れられる特典でしかないので(その意味では宿泊無料券でさえも力不足と思います)。

「いくらお金を積んでも、ふるさと納税制度以外では得られない返礼品」にすることではじめて、競争力を持つわけです。

そんなこと、できるの? いや実例はあります。2015年、愛知県豊田市が発売直後の燃料電池車、トヨタの「MIRAI」に1日乗り放題という返礼品の提供を発表したところ、5日間で303人が応募。すぐさま打ち止めとなりました。当時は、「MIRAI」に乗る手だてが他にほぼなかったからこその反響でしょう。県外からわざわざ申し込む人が殺到したんです。

お待たせしました。さあ、今回の話は、ここからが本番です。

私が評価している最新のふるさと納税返礼品。それは……。

天文台を貸し切って、天体を40分間好きなだけ撮影できる、というものです。

高知県の四万十市西土佐は、星空の美しい地として、知る人ぞ知る存在です。清流四万十川が流れ、山々が連なるという環境にあります。

高台に、四万十天文台があります。この天文台、初代の天文台は1990年に完成していたのですが、老朽化が進み、2013年に二代目が建てられました。

ここで重要なのは、その建て直しにかかった総額720万円は、ほかならぬ四万十市へのふるさと納税の寄付金で賄われていたんです。そして、ふるさと納税によって復活したこの天文台が、今度はふるさと納税の返礼品に活用されることになった。

1万7000円以上の寄付で得られるのは……。

まず、20時から、一般参加者とともに体験する天体観望会。大きな望遠鏡で、さまざまな星を眺めます。天体の専門家である女性アテンダンドが優しく、そして詳しく解説してくれ、とても楽しめる1時間。

そして、一般参加者は21時になると天文台を去っていきます。ここからがふるさと納税の返礼品ならではの時間です。

アテンダントが、天文台所有のデジタル一眼レフを望遠鏡にセットしてくれ、いよいよ撮影会です。天文台の中にいられるのは、ふるさと納税を済ませた2人1組限定、そして、寄り添ってくれるアテンダント。

21時からの40分間、もう撮り放題です。こんな星が撮りたいと言えば、アテンダントが望遠鏡とカメラをきちんと設定してくれ、ときにはアドバイスもくれます。

実際に体験した私がこの40分間でこだわったのは、ほのかな緑色に光るリング状の星雲でした。シャッタースピードを変えるなどして、もう何度も撮影に臨みました。思いのほか、のめり込むひとときでしたね。

もちろんこの間も、アテンダントが、星空のこと、天文台のことなど、いろいろと教えてくれます。

撮影した画像は、SDカードに収めて、最後に渡してもらえました。

アテンダントによると、「貸し切りできる天文台は他にも存在するけれど、星の撮影まで完全貸し切りで可能なのは、国内でここだけのはず」とのことです。しかも、ふるさと納税で寄付した人だけが対象とのこと。

なるほど。やっぱりこれは、「ここでだけ、しかも、返礼品だけ」でしか味わえない特典だったのですね。

この返礼品、ちなみにどれくらいの原価なのか。取材時に聞くと、アテンダントの人件費を含めても3000円台。ということは、寄付金額の2割程度に収まっており、返礼品のコストとしても優等生と言っていい企画であるわけです。

ふるさと納税の寄付金を使って、老朽化していた天文台を建て直し、そしていま、こうして「返礼品でしか体験できない限定イベント」に活用している。

これって、ふるさと納税の手本のような展開ではないですかね。現時点では申し込みは数件程度にとどまっているとはいえ、私には「明日のヒット商品」になる可能性を感じられました。

講師紹介

北村 森(『日経トレンディ』元編集長/商品ジャーナリスト)

1966年富山県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。商品ジャーナリストとして、 地方発の隠れた実力派商品を全国に紹介したり、 ヒット商品あるいは残念な結果に終わった商品から教訓を読み取り伝えている。「消費者がおカネで買えるものすべてを評価する」ことを旗印に、取材・執筆活動を続け、なかでも国...>もっと見る

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