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経済・株式・資産

2018.10.31

第112話 なぜ日中は第三国市場で競争から協力へ方向転換か?

中国経済の最新動向

 今年10月26日、日中両政府は「日中第三国市場協力フォーラム」を北京で開き、中国訪問中の安倍首相が李克強首相とともに出席し、両国企業がアジアなど新興国でのインフラ投資などを共同展開するための52件の協力文書を取り交わした。これまでインフラ輸出をめぐって第三国市場で激しく競り合ってきた日中両国は、一転して競争から協力へと大きく方向転換することになった。

それでは、日中の方針転換の背景には一体何があったのだろうか?また、日中双方のそれぞれの打算は何か?

まず日本側の事情を説明する。日本は2013年5月開催の経協インフラ戦略会議にて「インフラシステム輸出戦略」を決定し、「2020年に約30兆円(2010年約10兆円)のインフラシステムの受注」を成果目標として設定した。経協インフラ戦略会議は安倍政権の成長戦略を支えるために設置された組織の1つで、海外との経済協力やインフラ輸出、資源獲得の3分野を統合的に議論する。会議は内閣官房長官が議長を務め、副首相兼財務相、総務相、外務相、経済産業相、国土交通相、経済再生担当相のほか、必要に応じて関係者が出席する。

 2018年6月7日開催の「第37回経協インフラ戦略会議」の資料によれば、2016年の統計などに基づくインフラ受注実績は約21兆円となり、前年(2015年)比で約1兆円の増加となった(次頁図1)。分野別内訳では、情報通信(9兆円)が最も多く、次いでエネルギー(4.7兆円)となっている(次頁表1)。

一見すれば、「2020年に約30兆円」の目標に向けて増加基調を維持しているように見えるが、実際は違う。日本企業は中国の「一帯一路」戦略の影響を受け、インフラ輸出で苦戦しているのは実状である。

 周知の通り、中国が「一帯一路」戦略を打ち出したのは2013年で、本格的な展開が始まったのは2015年以降である。次頁の図1に示すように、日本のインフラ輸出の鈍化が始まったのも2015年からである。

2014年日本のインフラ輸出実績は19兆円で、前年比で約4兆円増えたが、15年約1兆円の増加、16年も約1兆円の増加で、伸び率が大幅に鈍化している。このまま、年間1兆円の増加ベースでは、「2020年に約30兆円」の戦略目標の実現が出来なくなる恐れが出てきた。

出所)「第37回経協インフラ会議(2018年6月7日)

出所)「第37回経協インフラ会議(2018年6月7日)

 日本のインフラ輸出の苦戦ぶりを裏付けるアメリカ側の統計データがある。米国建設専門雑誌ENRの集計データ「ENR(Engineering News-Record),The Top 250 International Contractors,2003~2014」である。ENRが国際建設企業トップ250社(海外プロジェクトの収益源)へ調査した結果を集計。建築、工場、電力、上水、下水/廃棄物、プラント、運輸/交通などが含まれる。ENRの集計によれば、2014年に中国のインフラ輸出実績は897億ドルで、日本(218億ドル)の4.1倍、韓国(370億ドル)の2.4倍に相当し、日韓に対し圧倒的な強さを示している(図2を参照)。

 また、日・中・韓3ヵ国のインフラ輸出の増減につき、2014年に中国は前年比で約107億ドルの増加に対し、韓国は約54億ドルの減少、日本も約4億ドルの減少となっている。言い換えれば、「一帯一路」戦略の展開に伴い、2014年中国企業によるインフラ輸出が急増している。一方、日本や韓国が減少に転じ、中国1人勝ちの状態を示している。

出所)国土交通省海外プロジェクト推進課国際協力官松村知樹「国土交通省によるインフラシステム海外展開の取り組み」(平成29年7月)。出典はENR(Engineering News-Record),The Top 250 International Contractors,2003~2014。

 要するに、現状のままではインフラ輸出「2020年に約30兆円」という戦略目標の実現が難しく、安倍政権は危機感を強めている。掲げる戦略目標を実現するためには、中国の「一帯一路」戦略を日本インフラ輸出の「逆風」から「追い風」に転換させる必要があり、日中関係を「競争」から「協調」に転じさせ、第三国市場で日中インフラ協力を行わなければならない。

一方、今年に入って、欧米中心に「一帯一路」を「中国債務の罠」、「新型植民主義」と批判する声が強まっている。マレーシアなどでは政権交代によって、「一帯一路」案件は停止に追い込まれたケースが相次いでいる。こうした逆風の中、日本企業が「一帯一路」に関与すれば、中国企業による推進案件の品質や技術水準及び国際信用の向上に繋がる。わかり易く説明すれば、日本企業の参入は中国の救いとなる。

日中両国はそれぞれの打算があるが、相互利用で各自の難局を乗り越えようとする思惑では一致している。悪性競争のゼロサムから脱却し、相互協力のウィンウィン体制を構築する発想だ。この発想から、日中関係が大きく動き出した。

今年5月、中国の李克強首相が来日、安倍首相と会談し、両首脳は第三国で日中民間企業によるインフラ協力を進めていくため、官民の新たなフォーラムを設置することで合意した。

さらに、今年10月25日に安倍首相が7年ぶりに中国を公式訪問し、北京で李首相や習近平国家主席と相次いで会談した。日中両政府主催の「日中第三国市場協力フォーラム」も安倍首相の訪中に合わせ、26日に北京で開催した。日中の政府系機関や民間企業がアジアなど新興国でのインフラ投資などを共同展開するための52件の協力文書を取り交わした。双方の努力によって、日中第三国市場協力事業がついに軌道に乗り始めた。(了)

講師紹介

沈 才彬(多摩大学 教授)

1944年中国江蘇省海門市生まれ。中国社会科学院大学院修了。同大学院準教授、東京大学、早稲田大学、御茶ノ水女子大学、一橋大学などの客員研究員を歴任。三井物産戦略研究所主任研究員、同中国経済センター長などを経て、08年4月より、多摩大学経営情報学部教授、および、同大学院経営情報学研究科教...>もっと見る

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