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歴史・人間学・古典

2018.10.16

組織を動かす力(3)メンバーの自主性を育てる

指導者たる者かくあるべし

 大きな課題から解決する

 エディー・ジョーンズ率いるラグビー日本代表は、2015年の第8回ワールドカップ英国大会までの3年余りの準備期間に135日の合宿をおこなった。各選手のクラブチームでの日程の合間を縫っての訓練はハードなものだった。

 合宿がひとつ終わると、何ができて何が課題として残ったかを見直して、次に活かす。

 「どこを改善するかは明確でないといけない」というエディーは、次回に改善すべき課題を三つに絞ることを心がけた。

 「人は三つまでしか覚えられない。何かを変えようとするなら優先順位をつける必要があるが、課題が多すぎると優先順位がつけられない」というのがその理由だ。問題は戦術にあるのか、スキルか、あるいはモチベーションなのか。原因は何かを探る。

 「多くの問題点が挙がってもすべては改善できない。最も重要な問題を選び出し、それを改善できれば残りの課題は自然と解決される」。エディーの信念だった。

 

 自分で状況判断できる能力を

 エディは選手に「ディリジェント(diligent)」であることを要求した。直訳すれば、「勤勉」だが、彼が求めたのは、言われたことだけをやる生真面目さではない。教わったことを自分なりに消化し、必要なことを自ら身につけ、状況に応じて発揮できる能力だ。合宿でも口を酸っぱくして叩き込んだ。

 とくにキャプテンのリーチ・マイケルには、ディリジェントなキャプテンシーを指導した。

 「試合中は自ら考えゲームプランを組み立てろ。グラウンドに出れば、キャプテンが勝敗を左右するんだぞ」

 

 南アフリカ戦、最後の10分の奇跡

 2015年9月19日、運命の日はやってきた。1次リーグ初戦の、対南アフリカ戦。

 悲願の24年ぶりの勝利を目指す日本代表は、前半から、しつこい防御と攻撃で強敵に食い下がった。後半残り10分で29対32。これだけでも善戦だった。しかし、フィフティーンたちは、「勝って、日本ラグビーの歴史を変える」ことしか頭になかった。日本の猛攻が始まる。

 80分の試合が終わる寸前、焦る南アが自陣ゴール前で反則をとられペナルティ。常識なら、この日キック絶好調の五郎丸のペナルティゴール(3点)で、引き分けに持ち込むところだ。スタンドに陣取るエディもキックを指示した。判断を任されたキャプテンのマイケルは、フォワードの面々に声をかける。「スクラム、いけるか?」。「押せる、スクラムだ!」と熱い声が口々に返ってきた。

 「スクラム!」。マイケルの判断は、トライ(5点)での逆転勝利狙いだった。

 「同点じゃだめだ。勝って日本ラグビーの歴史を変えて見せる」。全員の思いだった。

 試合時間が切れた。このあとプレイが途切れれば万事休す。フォワードが、バックスがゴールライン目指して反復攻撃で殺到する。

 ウイングのヘスケスがゴール左隅に飛び込む。トライ。34対32の歴史的逆転勝利となった。

 「選手たちをみくびっていたな」。エディは、同点狙いを指示した自分の判断を超えた選手たちの成長ぶりに舌を巻きながら、3年半にわたる指導の正しさを噛みしめていた。

(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

※参考文献
『ラグビー日本代表監督エディー・ジョーンズの言葉 世界で勝つための思想と戦略』柴谷晋著 ベースボール・マガジン社

講師紹介

宇惠一郎(元読売新聞東京本社国際部編集委員)

 早稲田大学卒業後、商社を経て、1978年読売新聞社入社。社会部、外報部、95~98年ソウル支局長。帰国後、解説部次長、2007年編集委員。2011年4月〜2012年8月ソウル支局長(専任部長)、2012年9月編集委員、現在フリージャーナリストとして活躍している。 ※主な著書と受賞歴 「20XX年地方都市はど...>もっと見る

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