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2018.07.04

第12話 進化系アンテナショップ

北村森の「今月のヒット商品」

東京都内の繁華街を歩いていると、地方の自治体が運営するアンテナショップをよく見かけますよね。銀座、日本橋といった一等地で、県の名前を前面に出して、地域産品を販売している店舗。

地域創生という言葉が定着するなかで、各自治体は産品のアピールに必死なのだと思います。漏れ聞こえてくるところでは、毎年の運営で数千万円?1億円近い赤字を続けているところもあるようなのですが……。それでも、施策を何ら打たないで、その県の存在感が埋没してしまうことだけはさけたい、ということなのかもしれません。なので、私には、こうしたアンテナショップを全否定はできません。

ただし、いかにお金を生かすか、については、考えないといけないポイントですよね。何と言っても、税金を使っているわけですから。

で、今回取り上げたいのは、ここなんです。皆さんは、こんなアンテナショップ、あり、と思いますか?

これがエントランスです。都道府県名は見当たりません。施設の名は「TurnTable(ターンテーブル)。うっかり過ごすと、ここが自治体によるアンテナショップとは気付かないままで過ごすかもしれません。

さらに言うと、この一軒、JR渋谷駅から歩いて10分以上はかかります。裏渋谷と呼ばれる神泉町の細い路地に面した、5階建てのビルをまるまる改装しているのですが、エントランスもそう派手ではないし、ここを目指して来ないとたどり着かないような場所です。銀座や日本橋にあるアンテナショップのように、何かのついでにふらりと立ち寄れるという性格の施設では、決してない。

中はどうなっているのか。

1階はバルです。昼はカフェとしてランチも提供しています。ビールを注文すると、上勝町のビール醸造所が作る限定版が運ばれてきます。

バルの一角は、小さなマルシェ(市場)で、産地から届くスダチなども購入できます。では、2階はどうなっているかというと…。

こんな感じです。天然木の大きなテーブルをしつらえたレストラン。スタッフに聞くと、この天然木は、わざわざ地元から東京まで持ってきたそうです。

レストランのコースは5000円と8000円の2種類。初回のコースから例をあげると、まず鯛のカルパッチョ。味噌やスダチが隠し味といいます。メインの一皿は鮮やかな緑のピュレをあしらった阿波牛。

さらに面白いのは、ここからです。

この施設、上の階は、客室になっていて、宿泊することができます。つまり、おオーベルジュということ(オーベルジュとは「宿泊もできるレストラン」)。都心にあるオーベルジュ、という発想が興味深いところです。二段ベットをいくつも備えたグループドミトリーもあって、インバウンド客がよく利用しているそう。

客室は全部で15。シングルルームは1万円強、ドミトリーなら6000円台から利用できます。

さあ、こんな不思議なアンテナショップ、どこの自治体によるものなのか。

ヒントをちりばめたので、もうお気付きの方もいらっしゃるでしょうね。徳島県です。先に挙げた食材やビール、あるいは天然木は、すべて徳島産。

つまり、「徳島」という県名は決して前面に出していないけれど、ここで過ごすうちに、じわりじわりと徳島を体感することができる、そんな一軒になっているということです。

私、この考えは、実にいいと感じました。クチコミで広げるには、これくらい思い切った策を打ったほうがいい。徳島のアピールに向け、遠回りに見えるようで、実は近道なのでは、とすら思います。

産品の購入にもまして、こうした“滞在経験”(宿泊までしなくとも、飲食を楽しむだけでも…)から得られるインパクトというのは、消費者にとって大きいだろうと想像できるからです。

この「TurnTable」は、徳島県と民間事業者による、官民連携のプロジェクトです。施設を整備する初期費用は県が持ったのですが、開業したあとは、民間側は赤字黒字にかかわらず2000万円を県に支払う一方、県は毎年3000万円の固定額を負担する仕組み。つまり、開業後に儲かるかどうかは、民間側の奮闘次第です。私は、この座組みも面白いと感じました。ある意味、責任体制が明快ですから。

予算の承認や、こうした座組みによる開業にあたっては、賛否両論あったはずです。でも、賛否両論あるくらいの企画でなければ、今やインパクトをもたらさないというのも事実。

2月に開業しましたが、開業3カ月目にして、宿泊稼働率は77%超です。こんな地味な場所にありながら結構な健闘、と言っていい。

最後に……。ここ、朝食も美味しかった。徳島県産の生卵は、ご飯に乗っけると甘みが膨らみます。徳島ならではのフィッシュカツ(すり身のフライ)も並んでいました。宿泊客だけでなくイートインの客にも対応していて、値段は1000円です。

講師紹介

北村 森(『日経トレンディ』元編集長/商品ジャーナリスト)

1966年富山県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。商品ジャーナリストとして、 地方発の隠れた実力派商品を全国に紹介したり、 ヒット商品あるいは残念な結果に終わった商品から教訓を読み取り伝えている。「消費者がおカネで買えるものすべてを評価する」ことを旗印に、取材・執筆活動を続け、なかでも国...>もっと見る

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