第4回 従来の常識が通用しない新たなハラスメント問題の対処法

職場の生産性を下げるハラスメントの予防策

人事・労務・採用

2018.04.04

野崎大輔(日本労働教育総合研究所 所長 グラウンドワーク・パートナーズ株式会社 代表取締役)

スポーツの世界でもパワハラの問題が取り上げられています。加害者と被害者の構造が明確かと思いきや、後になってからパワハラの事実はなく、本人の勘違いであったり嘘だったのではないかという報道がなされていて、何が正しいのか分からなくなっています。
そして加害者、被害者の双方の評判を落とすという誰も得しないという泥沼化した状況に陥っています。
今回はより複雑化したハラスメント問題について企業がどのような点に注意しなければならないかを解説していきます。

被害者が加害者になる厄介なハラスメントで会社が疲弊する。

 従来は加害者と被害者の構図が明確で分かりやすいケースが多かったのですが、昨今はどちらが加害者なのかが分からないケースが増えています。またハラスメントのせいでうつ病になったと言って訴えてくるケースも増えており、対応に苦慮している企業は多いです。
 最近メディアでは芸能人の不倫が多く取り上げられています。
そんな中で自分には無関係な芸能人の不倫問題に目くじら立てて掲示板に書き込んだり、SNSで正論を振りかざしている人がいます。確かに一般的に考えると不倫は悪い、しかしそれは当事者間での問題であって一般人である我々には何の影響もないはずです。
いわゆる顔の見えない評論家が増えている時代で、このような評論家達は自分に無関係な他人のことでさえ、物申す風潮がありますから、自分のこととなったら猛烈に言ってくることは予想できます。これが今の世の中の風潮です。
 さらに昨今の労務管理は労働者保護の様相が強くなっています。
テレビ、新聞、書籍、インターネットにおいていろいろな情報が流れていて、誰もが何が
不当なのかが分かるようになりました。あらゆる知識を総動員して自分を守れる時代になっているのです。これは良いことではありますが、このような時代背景からハラスメントも新たな問題が生じてきています。
 従来はハラスメントの加害者と被害者の構造が分かりやすかったのですが、昨今はどっちが被害者か分からないような難しい状況へと変わってきています。
例えばこのようなことです。

部下が何度も同じミスをするので上司が部下に注意をする。
それを部下がパワハラと言ってくる。仕事上でミスをしたり、問題が起きてしまったら注意するのは当たり前のことなのにそれをパワハラ扱いされる。正しいことが悪いことのようにされてしまう。挙句の果てには、「上司のパワハラのせいでうつ病になったので休職します。」と言ってきたり、自分が悪いことを棚に上げて相手を責める。
注意をするのは正しいはずの上司が悪者のようになってしまう。
ハラスメントとして問題提起された以上、会社としても対応しなければならない。
この対応にかかる時間と労力に会社側が疲弊する・・・・

実はこのようなことが多くの企業で起きているのです。
一体どちらが加害者なのか分からない状態になり、自分の思った通りに問題が解決するまで引き下がらないという企業としては頭が痛い問題になります。

カギとなるのは「業務の適性な範囲内」かどうかにある

 私はこのような行為をハラスメント・ハラスメント(以下 ハラ・ハラという)と定義しました。ハラ・ハラとは「ハラスメントという大義名分を武器に、言いがかりに近いことを言って周囲を困らせる行為」のことです。そしてそういうことばかりする社員を『ハラ・ハラ社員』と命名し、彼らの行為とその問題点、周囲への影響について警鐘をならしています。
 ある会社で経理担当の女性を採用しました。面接では一通りの業務を経験してきたと言っていたので採用したのですが、実際に任せてみると基本的なこともできておらず、ミスも多かったそうです。注意しても反省せず、逆に言い返してくるので他の社員からも疎まれるようになりました。
ある日彼女の上司が「何度同じミスを繰り返すんだ。ちゃんと言われたことを聞いてしっかりやれ。」と厳しく注意しました。すると翌日から彼女は体調不良という理由で出社しなくなり、診断書と休職願が届きました。そこにはこのように記載されていました。

「A課長のパワハラのせいでうつ状態となりました。ついては休職しますので労災の申請をお願いします。」

この段階で私に相談が来たのでパワハラがあったのかを事実確認したところ、行為内容はパワハラに該当しませんでした。
多くの会社では、たとえパワハラでなかったとしても、診断書が提出されたり、パワハラと言われるとパニック状態に陥ります。
しかし次のことを覚えておいてください。

業務の範囲内の注意指導はパワハラではない。

もし社員が上司からの業務上必要な注意・指導に対して不満を抱いたとしても、業務上の適正な範囲で行われている場合には、パワーハラスメントにはあたりません。
上司は業務上の指揮や教育指導を行うのは、上司としての役割です。逆に指揮、教育指導をしないというのは職務怠慢になります。厚生労働省が提示している職場のパワーハラスメント対策は、そのような上司の適正な指導を妨げるものではありません。
 このようにハラ・ハラが発生した場合は、前回お伝えした対応法で対処するのが基本となります。しかしこの問題の場合は、「上司はパワハラなのでなんとかしろ」という強硬な
スタンスはなかなか崩れず、譲歩されることは少ないです。
上司の注意指導が業務の範囲内であれば、上司には今後は気をつけるように注意喚起を促すにとどめ、被害者の社員には「上司には注意をした」ということを伝えて終えることとなります。それでも不満を言ってくる場合は、会社としては本件についてはできる限りのことを誠実に適正に対応したということを伝えます。
あとで争いになった時のために誰もが客観的にパワハラではないと分かるように経緯を議事録としてまとめておいた方が良いです。
 繰り返しになりますが言いがかりのようなハラスメント問題が発生した場合、まず確認しなければならないのは、注意指導が業務上適正な範囲内だったのかということです。
上司の注意指導が適正な範囲内であるならば、毅然とした対応をしましょう。

講師紹介

野崎大輔(日本労働教育総合研究所 所長 グラウンドワーク・パートナーズ株式会社 代表取締役)

上場企業の人事部でメンタルヘルス対策、問題社員対応などの労働問題の解決に従事した後に社労士事務所を開業。労働紛争予防解決のスペシャリストとして300件以上の問題社員対応、あっせん、組合対応等の労働問題を解決し、関与した顧問先については労働問題がほぼ発生しなくなる。 労働問題を発生させ...>もっと見る

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