第20回 好業績を生む「善意の文化」という経営方針
六月のはじめに、「大きくなること」ではなく、「偉大になること」を目指す中小企業の異業種連携団体『スモール・ジャイアンツ』の定例総会でコロラド州デンバーに行ってきました。志を同じくする経営者、リーダーたちが一堂に会しました。リーダーシップから採用、人材育成に至るまで、「偉大な会社になる」ための課題や難題を取り扱うトピックが次々と話し合われました。
なかでも、関心の高かったのはやはり採用です。中小企業にとって優れた人材の確保が課題であることはやはりアメリカも日本も変わりないようです。参加企業の経営者や人事担当者の間で人材確保のための戦略や工夫について活発に意見が交わされました。
特に関心を誘われたのは「使命を基盤とした雇用」という言葉です。中西部にある製造業の会社ですが、この会社では、税引き前利益の10%を地域の共同体やその他の社会貢献活動に寄付しています。そして、そういった会社の信条に共感してくれる人を雇い入れるために、会社の使命を基盤としたスクリーニングを採用プロセスの中に組み込んでいるそうです。
事業内容として「何をやっている会社なのか」というだけではなく、どんな使命や哲学をもち「何のために存在している会社なのか」ということが問われる時代になっています。営利企業が「使命」なんて・・・と違和感を持つ人もいるかもしれませんが、昨今のアメリカでは、「使命」や「主義主張」を明確に打ち出して、それを優れた人材確保の戦略の柱とするところも珍しくなくなってきています。
一例として、「善意の文化」という経営方針を打ち出している会社の話を聞きました。この会社は約3,000人の従業員を抱える携帯電話の販売代理店大手です。米国40州で店舗の運営をしていますが、各地域の従業員が率先して何らかの社会貢献活動をすることを経営方針の柱として組み込んでいるのです。チャリティ団体に〇ドルの寄付をするとか、そういった「金銭ベースの支援」ではなく、従業員が誰でも自分が率先したい/参加したい活動を提案することができます。
過去には、会社は「仕事をするところ」「会社のためにお金を稼ぐところ」という考えが主流でしたが、働く人を会社という大きな機械の「歯車」として見る経営はもはや生活者から支持されない時代遅れなものになっています。職場で、働く人一人ひとりが「自分にとって大切なこと」を表現する機会を与えられ、それに対して実質的な貢献をする機会を与えられた時に、働く人は「人間に還ることができる」という言葉が深く心に刺さりました。
職場で「人間力」を発揮してもらうためには、働く人の知識や技能だけではなく、情熱や社会意識なども含んだ「全人格」を雇う努力をしていく必要があります。アメリカで「ミレニアル」と呼ばれる若い世代(16歳~36歳程度)が従業員の約80%を占めるこの代理店ですが、「善意の文化」という経営方針を打ち立てて以来、三年間で売上を3倍、利益を5倍、従業員数を2倍に拡大する快挙を収めているそうです。