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人間学・古典

第25回 背中で教える 光武帝の教育

経営に活かす“十八史略”

 部下としっかりコミュニケーションを図れば、社長の思いが部下に、部下の思いが社長に伝わって人事評価の結果に納得感が増すと共に、部下教育も進むことになります。
 しかし、実際のところ、

  ・言葉で行なう教育には限界がある

 ので、いくら話し合いをしても肝心なところは伝わりません。それはやはり、

  ・やってみせる、させてみる

といった体験によって伝授されていくものなのです。
 「十八史略」にこんな話があります。
 後漢の光武帝は、天下がまだ平定されないうちから、すでに学問をもって天下を治めようという志をもっていました。
 即位した後、まず太学(だいがく)を創建して、古典を学んで手本とし、また礼楽(れいがく)を明らかにしました。晩年には天子の政治を行き渡らせ天帝を祭るための明堂(めいどう)、天文観測により天変地異などを予見するための霊台(れいだい)、そして辟雍(へきよう)という学校を建てています。これらの燦然(さんぜん)たる文物は後世に述べ伝えるに足るものでした。
 光武帝は毎朝早くから朝廷に出て政務を行い、日が傾いてから仕事を切り上げました。高位高官の者たちを呼び、経書について説き、論じ、夜半になってからようやく床につくという熱心さだったのです。
 皇太子(後の明帝)は心配して、
 「陛下は古(いにしえ)の禹(う)王や湯(とう)王のように聡明であられますが、黄帝(こうてい)や老子のように性を養い健康を保つ道を失っておられます」
 と諫めました。すると、光武帝は、
 「私はみずから、このようにすることを楽しんでいるのだ。疲れることはないよ」
 と答えたといいます。
 このような父の姿を見ながら明帝は成長し、位を継いだのです。
 明帝は幼い頃から英邁(えいまい)でした。
 光武帝が州郡に詔勅(しょうちょく)を発して、開墾した田地や戸数、人口などを調べさせたとき、諸郡はそれぞれ人を遣わして報告させました。陳留(ちんりゅう)の地の役人の書類を見ると、上に何か書かれており、
 「潁川(えいせん)、弘農(こうのう)の両郡は調査可。河南(かなん)、南陽(なんよう)は調査不可」
 とあります。光武帝は役人にその理由を尋ねたところ、役人はこうとぼけました。
 「街中で耳にしたことを書き留めただけのことです」
 光武帝は怒りました。このとき、劉陽(りゅうよう)(後の明帝)はわずか12歳でしたが、玉座の幕の後ろに居ながら、こう言います。
 「この役人は郡守の命令を受けてきただけです。郡守は各郡の開墾地がどれくらいか、きちんと比較して、不公平が起こらないようにしたいのでしょう。河南郡は帝城があり近臣の領地が多い地域、南陽郡は父上の郷里であり皇族の領地が多い地域です。この2郡については田地や宅地が広大であり、他の郡と同じ基準で測ることができません。その点を配慮したのでしょう」
 光武帝は納得して、その役人に詰問すると、
 「まさしくその通りでございます」
 と白状して罪に服しました。光武帝は劉陽の聡明さに大いに感嘆します。
 光武帝の死後、即位した明帝は疑い深い性格で、探偵を使って自分の臣下の秘密を摘発するなどの趣味があり、怒ると杖(つえ)で臣下を突くなど乱暴な部分はありましたが、よく光武帝の時代に作られた制度を遵奉(じゅんぽう)して少しも変えませんでしたし、皇后の一門を大名にも取り立てず、外戚が権力を振るうこともなかったので、国は光武帝の頃よりさらに発展したのです。
 光武帝の仕事ぶりを子供の頃から見ていた明帝は、大変すぐれた皇帝となりました。教育の手段としては、

  あるべき姿とはどのようなものか、まず見せること

 が大事です。それには日々、自分自身が優れた仕事を行い続ける必要があります。ですから、教育はまず自分が教師とならねばなりません。外部講師を呼ぶなどは、その次に考えましょう。 

 

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第24回 過ちを悔い改める 重耳の失敗対応前のページ

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