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第88回
「米中貿易戦争」の行方はどうなる?日本への影響は??
~相互依存で繁栄を謳歌していた「CHIMERICA」が離婚!~

次の売れ筋をつかむ術

 

 
2018年3月末から、にわかに激しさを増して来た「米中貿易戦争」の行方を、日本はもちろん、世界中が固唾を飲んで見守っている。
 
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日本人の多くは、日本こそがアメリカにとって世界で一番の政治・経済・軍事上の同盟国だと信じており、実はアメリカと中国が仲が良いとは思いたくない。
 
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しかし、アメリカと中国の政財界では常識なのに、日本ではほとんど知られていないキーワードで、「CHIMERICA」(チャイメリカ)という言葉がある。
 
 
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「CHIMERICA」とは、21世紀初頭の現在、世界で最も繁栄している国だとも言える。
 
「CHIMERICA」は、文字通り、「CHINA」と「AMERICA」を合わせた造語で、ハーバード大学の経済史学者、ニーアル・ファーガソン教授が、2008年に著した『マネーの台頭』(The Ascent of Money)の中で紹介し 、広まった。
 
 
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ファーガソン教授が「CHIMERICA」と名付けた、米ソの冷戦後に誕生した新たな経済同盟は、地球の陸地の10分の1、総人口の4分の1を擁し、21世紀に入って以降、世界の経済成長の半分を担って来た。
 
GDP世界2位で世界最大の外貨準備高を有する国と、GDP世界1位で世界最大の消費国は、日本が失われた20年に沈むのを尻目に、持ちつ持たれつの良好な関係を維持してきた。
 
しかし、プライベートでも離婚を繰り返して来たトランプ氏が大統領に就任して1年3カ月。アメリカがついに貿易戦争を宣戦布告。
 
 
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相互依存で繁栄を謳歌して来た「CHIMERICA」がついに離婚の危機に陥っている。
 
 
●激しさを増す「米中貿易戦争」
 
激しさを増す「米中貿易戦争」の勃発時の経緯については、大いに啓発されている国際関係研究の第一人者の北野幸伯(きたのよしのり)氏が、メールマガジン『RPE(ロシア政治経済ジャーナル)』にわかりやすくまとめていただいているので、以下、引用させていただく。(「である調」に西川が加筆修正)
 
 
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2018年3月22日、「米中貿易戦争」勃発!
トランプ大統領は、この日、500億ドル(約5.3兆円)相当の中国製品に関税を課すことを、通商代表部に指示する文書に署名した。また、23日、鉄鋼、アルミ製品の関税が引き上げられた。
 
3月23日、中国「報復措置」を発表
中国商務省は、23日、米国産品30億ドル(約3100億円)分の輸入に追加関税をかける報復措置計画を発表した。「アメリカと比べるとずいぶん額が少ないな」と思うが、これは、「鉄鋼、アルミ関税引き上げ」に対する報復措置「計画」である。そして、対象は、米国産農産物がメイン。
 
4月2日、中国、報復関税発動
これは、アメリカの「鉄鋼、アルミ製品関税引き上げ」に対する報復措置。
 
4月3日、アメリカ、制裁対象品目を発表
米、新たな対中制裁案公表 知財関連1300品目を標的、総額5.3兆円
 
米通商代表部(USTR)は、3日、通商法301条に基づき、米国の知的財産を侵害する中国への制裁措置として追加関税を課す中国製品目リストの原案を公表した。情報通信や航空宇宙などハイテク製品を主な対象に約1300品目、総額約500億ドル(約5兆3千億円)となる。
 
4月4日、中国、報復措置を発表
中国は4日、米国からの輸入品約500億ドル相当に25%の追加関税を課す計画を発表した。対象には大豆や自動車、化学品、航空機などが含まれる。米政権は、前日、中国製品500億ドル相当に知財制裁関税を課す計画を明らかにしていた。
(ブルームバーグ 4月6日)
 
今度は農産物だけでなく、自動車、化学品、航空機が含まれ対象が拡大している。これに対してトランプ大統領は?
 
4月5日、トランプ大統領、中国への追加関税検討を指示
トランプ米大統領は、5日、中国製品に対する1000億ドル(約10兆7千億円)規模の追加関税を検討するよう米通商代表部(USTR)に指示したことを明らかにした。中国の「不公正な報復」を踏まえた措置としている。
(CNN 4月6日)
 
 
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とりあえず、これまで起こったことを簡潔にまとめると、こんな感じになる。トランプ大統領が「制裁する!」といい、中国が「報復する!」という。そして、トランプ大統領が「さらに制裁する!」といい、中国が「さらに報復する!」という。対立が、どんどんエスカレートしている。
 
 
 
●中国で大流行「奉陪到底!」(最後まで付き合ってやる!)
 
面子を何よりも重視する中国が黙っている訳がない。
 
中国の政府関係者や貿易に携わるビジネスマンから一般の老若男女に至るまで広がっている流行語をご存知だろうか?
 
 
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「奉陪到底!」(フェンペイタオディ=最後まで付き合ってやる!)という言葉だ。
 
「アメリカが貿易戦争をしたいなら結構。我々は最後まで付き合ってやる!」と中国政府の高官たちが同じ言葉で応酬した。
 
いわゆる、売り言葉に買い言葉である。
 
もともとは、中国で2011年に公開されたものの、あまりヒットしなかった任侠映画のタイトルだった。
 
この言葉の、崔天凱駐米大使の言い方、華春莹外交部報道官の言い方、王受文商務部副部長の言い方など様々なバージョンがあり、北京などでは、子どもたちに至るまで、マネをしながら、「奉陪到底!」とスゴむのだ。
 
トランプ大統領が仕掛けた「米中貿易戦争」は、中国人民のナショナリズムに火を着け、思わぬ流行語を生んでいる。
 
中国らしい表現で言うならば、パンダが龍になったのだ。
 
 
 
●アメリカの対中国の貿易赤字が過去最大を記録、前年比8%増加
 
米中の間で報復の連鎖が続いているが、アメリカ側の背景には、貿易赤字の削減を公約に掲げて当選したトランプ大統領が、2018年秋の中間選挙までに目に見える成果を必要としていることも大きいに違いない。
 
言うまでもなく、トランプ政権による保護主義的な政策は、米国が抱える巨額の貿易赤字を減らすためだ。
 
アメリカ商務省によれば、2017年の物品の貿易赤字は7962億ドル(約86兆8千億円)と、前年比で8.1%も増えた。実に2008年以来、9年ぶりの大きさだ。
 
中でも、全体の約半分を占める対中国の貿易赤字3752億ドルと過去最大を記録し、前年を8%以上も上回った。
 
2018年1月に発表された中国側の統計でも、アメリカの中国に対する赤字は過去最高となっている。
 
 
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また、貿易不均衡の是正のみならず、知的財産権の侵害を防ぐ目的で、中国に対する制裁の対象となる1300品目には、半導体、産業ロボット、航空・宇宙機器といった、これからの成長分野であるハイテク製品も含まれている。
 
今まで中国の貿易は大量供給された安価な汎用品が中心だったが、人件費も上がり、国際競争力がそがれる中、今後はアメリカなど先進国がリードして来た高付加価値産業への転換を重要政策に掲げている。
 
そういった次世代産業をもターゲットにし、産業構造の転換を目指す中国を事前に押しとどめようとする意図も見える。
 
つまり、「米中貿易戦争」は、今、まさに始まったばかりであり、一旦、収束するかに見えても、今後、数十年にわたって、成長分野の覇権をめぐり、攻防が続くことは必至だ。
 
※トランプ大統領は、以下のようにTwitterでつぶやいている。
 
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過去40年間にわたり、アメリカの中国対する貿易は赤字だ。こんな不公平な貿易を終わらせ、障壁を取り去り、税率を見直す必要がある。アメリカは年に 5千億ドルを失い、何十年にもわたって何十億ドルを失っている。こんなことが続けられるはずがない!
 
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我々は、今、中国と貿易戦争をしているわけではない。この戦争には、過去の愚かで無能なアメリカを代表した人々によって、何年も前に負けている。現在、我々の貿易赤字は年5千億ドルにも上るのだ。また、知的財産が3千億ドルも盗まれている。こんなことを継続させることはできない!
 
 
 
●習近平がトランプに「降伏宣言」?
 
「米中貿易戦争」の行方を世界中が見守る中、4月10日、中国の習近平国家主席は、突如、「降伏宣言」をした?
 
 
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中国の海南島のボーアオで開催された「中国版ダボス会議」において、習主席は、「中国の市場環境はこれから大幅に改善し、中国の対外開放は全く新しい局面が開かれる。外資企業の中国における合法的な知的財産を守る」と述べ、市場開放に向けて努力する姿勢を表明。
 
自動車産業の合弁企業の規則を緩和し、証券・保険の分野でも外国資本の過半出資を容認した。
 
また、トランプ政権が問題視する対中貿易赤字についても、「貿易黒字を追求しない」と輸入拡大に努力するとし、自動車などの関税を大幅に引き下げる意向を示すなど、少なくとも言葉の上では、アメリカ側の要求に満額回答した形だ。
 
これに対し、トランプ大統領もTwitterで満足げにつぶやいた。
 
 
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関税と自動車の障壁に関する中国の習主席の思いやりのある言葉に感謝している。知的財産と技術移転についても光明だ。我々はともに偉大な進歩を遂げるだろう!
 
しかし、サンダース米大統領報道官は、習氏の発言に対して、「正しい方向への一歩だが、単なる美辞麗句ではなく具体的に行動を起こしてほしい」と実行するようクギを刺した。
 
そして、中国が市場開放を具体化するまで交渉を続け、関税引き上げなど制裁発動の手続きも進める考えを示した。
 
 
 
●世界の市場関係者が最も恐れること
 
これによって、アメリカと中国の摩擦で大揺れだった世界の株式市場も一安心した。
 
しかし、先に述べたように、「米中貿易戦争」は休戦したかに見えても、この戦いは、これからが本番だ。
 
世界の市場関係者が恐れているのは、国内のナショナリズムを押さえきれなくなり、中国が最終兵器を使用することだ。
 
それは、「米国債の売却」と「人民元の切り下げ」である。
 
「米国債の売却」は、アメリカ政府の財政が悪化する中、短期的な駆け引きの手段として使われる可能性もあるため、市場関係者は気が気でない。
 
ただ、そんな暴挙に出れば、中国は薮蛇に陥る可能性が高い。
 
米国債の発行残高14兆4700億ドルの内、2017年末現在、中国が保有する米国債は1兆1849億ドル(約124兆円)と発行残高の約8%を占める。
 
 
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米国債の最大の保有者である中国が売却すれば、世界の債券市場は大暴落する。米国債の価格が急落すれば自らも巨額の損失を被る。
 
また、同時に金利も上昇するため、米国債はリスクの少ない金融商品なので、中東の国々や日本をはじめ買いに入る投資家も多くいると思われる。あるいは、アメリカの中央銀行のFRBが買い上げることも可能だ。
 
一方、「人民元の切り下げ」もブーメランとして帰って来かねない。動力の元である原油とガスを輸入に頼っている中国は、輸入代金が暴騰し、恐ろしいインフレに見舞われることになる。
 
 
 
●「米中貿易戦争」で日本はどうなる?
 
「米中貿易戦争」は日本にどのような影響を及ぼすのか?
 
 
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世界1位のアメリカと2位の中国という2つの経済大国への輸出入で食べていると言っても過言ではない日本が無傷であるわけがない。
 
実は、トランプ政権が中国から輸入される鉄鋼に制裁関税を課すと発表した際、世界中で最も大きく下落した株式相場は、中国ではなく、何と日本だった。
 
アメリカに輸出されている高級鋼板や自動車鋼板の元は中国では製造ではなく、日本で製造されている。
 
また、日本からの主要な輸出品は、米国向けが自動車や関連部品など、中国向けがスマートフォン向けの電子部品などだ。
 
つまり、世界の貿易額が減少し、米中の景気が後退すれば、日本からの輸出は大きく減少し、真っ先にマイナスの影響を受けることになるのだ。
 
経済協力開発機構(OECD)によれば、米国が共同歩調を求める欧州連合(EU)も関税引き上げに踏み切り、米中欧の貿易コストが10%高まると、世界の貿易量は6%、世界のDGPは1.4%押し下げられる。
 
ところが、日本経済への影響はさらに大きく、米中欧が関税を引き上げた場合は2.1%、米中だけでも1.4%はGDPが押し下げられると試算されている。(第一生命経済研究所)
 
また、市場のリスク回避が強まり、安全資産とされる円が買われると、1ドル=106円台の円相場が100円を切る水準まで円高が進む可能性も取りざたされている。
 
日本製品は割高となるため輸出が落ちると同時に、株安が日本国内の消費や投資意欲の減退につながる恐れも高いのだ。
 
米中の報復の応酬が続けば、日本経済がマイナス成長に陥る恐れさえある。
 
 
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私たちが生きる21世紀初頭は、アメリカと中国が、政治、経済、軍事で世界の覇権を争い続ける時代であると認識すべきだ。
 
対岸の火事では済まされない。常に最新の情勢を知り、即応しなければならない。
 
 

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