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中国史に学ぶ(13) わかりやすい忠言には裏がある

中国史に学ぶ(13) わかりやすい忠言には裏がある

 中国戦国時代の楚の国に弁論家の江乙(こういつ)が流れてきて宣王の相談役となった。

 ある時、江乙は王にこんなことを言う。

 「好んで他人の長所を言い立てる者を王はどう思われるでしょう」

 「それは君子だ。側近としよう」と王。

 「では、他人の悪を言い立てる者はどうでしょう」と聞かれ、「そんな男は遠ざけよう」と答えた。

 江乙は畳みかけて言う。「それは王が人を褒めるのを聞くのが好きで、人の悪口を聞くのがお嫌だからですが、危険です。お気をつけられるように」

 「なるほど、これからは両方の声を聞くようにしよう」と、江乙の説く逆説にすっかり取り込まれ、その言に耳を傾けるようになった。

 宣王には、昭奚恤(しょうけいじゅつ)という評判の宰相がいて、国の北方の守りを堅めていた。人望もあり、あまりの評判に宣王は「王に取って代わろうとするのではないか」と少々不安になってきて、臣下に問う。

 「北の国々は昭奚恤をたいそう恐れているというが、事実はどうなのか」

 王の心中を測りかねて誰も答えない。江乙が口を開いた。たとえ話を切り出す。

 〈ある時、虎が狐を捕らえた。狐が命乞いをして言った。「天帝は私を百獣の王として造られた。私を食べては、天帝の命に逆らうことになります。信じられないというなら私の後ろをついてくれば分かります」。虎は狐の後を歩いてみたが、獣たちは狐を見かけると皆逃げ出した。恐れ入った虎は狐を食べるのをやめた〉

 「これは、獣たちが狐を恐れてのことではなく、後に控える虎を恐れて逃げただけのことです。虎がそれに気づかなかったのです」

 よく知られる「虎の威を借る狐」の故事だ。

 さて江乙は、この話を振っておいて本題を切り出した。「王の領地は五千里四方に及びます。そして精兵百万をみな昭奚恤に預けておられます。北方の国々が彼を恐れるのは、王の軍勢を恐れているのに過ぎません」

 王に完全に取り入った江乙は、折に触れて、昭奚恤の悪口を王の耳に入れ、有能な宰相に対する王の評価が下がった。「狐に預けた兵」を取り上げることになるのは必定である。

 実はこの江乙は、楚の圧迫を受ける魏の国から送り込まれた男だった。まんまと昭奚恤軍の圧力を取り去ることに成功したのである。

 誰もが知る「虎の威を借る狐」の故事の、本当の怖さはここにある。

 (書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

 

参考文献

『戦国策』近藤光男著 講談社学術文庫
『中国古典文学大系7 戦国策』劉向編 常石茂訳 平凡社
『世界文学大系5A 史記世家篇』司馬遷著 小竹文夫、小竹武夫訳 筑摩書房

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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経営コラムニスト紹介

宇惠一郎

宇惠一郎氏  元読売新聞東京本社国際部編集委員

 早稲田大学卒業後、商社を経て、1978年読売新聞社入社。社会部、外報部、95~98年ソウル支局長。帰国後、解説部次長、2007年編集委員。2011年4月〜2012年8月ソウル支局長(専任部長)、2012年9月編集委員、現在フリージャーナリストとして活躍している。

 主な著書と受賞歴
「やさしい政治家 早稲田出身国会議員54人の研究」
「理解と誤解 特派員の読む金大中の韓国」
  1997年「第1回 サムスン言論大賞特別賞(海外部門)」受賞


連絡先 ueichi@nifty.com
 

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