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中国史に学ぶ(11) 譲歩、まわり道の智恵

中国史に学ぶ(11) 譲歩、まわり道の智恵

 目的を達するのに、ただ猪突猛進、直球だけでは、しくじることがある。古代中国の戦略教訓をまとめた『戦国策』は、深慮遠謀を巡らせることの重要さを繰り返し説いている。

 紀元前5世紀の中国は、周王室の権威が地に落ちて、“覇者”と呼ばれる各地の諸侯が角を突き合わせていた。

 黄河中流域を支配していた一大勢力の晋(しん)の国では、統率が失われ、さらに四つの地方氏族(四卿)が権力を分け食いする四分五裂の状況にあった。

 晋の地方勢力の中で知伯(ちはく)が軍事力を背景に版図を広げていた。

 ある日、勢いに乗る知伯はライバルの魏桓子(ぎかんし)に領地の割譲を要求した。魏桓子は、これを拒否しようとした。配下の臣である任章(じんしょう)は、「どうして拒否なさるのか」と、主人を諌める。

 魏桓子は答えて言う。「理由もなく土地を求めて来るのに与える必要はない」

 当然といえば当然だが、任章は憤懣やるかたない主人をこう説得した。「理由もなく土地を奪えば、周囲の国は知伯を恐れ、警戒するでしょう。そして土地を得た知伯は驕り高ぶり周辺国を軽んじることとなる。そこがチャンスです。自分だけで知伯に対抗してどうなるものですか」

 任章の助言に従って、魏桓子は一万戸の村を分け与えた。

 果たして図に乗った知伯は、また一人のライバルである趙襄子(ちょうじょうし)に二つの領地を寄越せと要求する。趙襄子はこれを拒んで城に立て籠もった。

 向かう所敵なしの知伯は、魏、韓の兵と協同で城を水攻めにする。驕る知伯。「戦さが終われば、我々三人で趙の領土を分けよう」。

 城の周りに水が押し寄せ、もはや落ちなんとする時、魏と韓は知伯に反逆し、水攻めの水路を付け替え知伯の陣に流した。あわてる知伯。城内の趙の兵も呼応して反撃に出て、知伯の一族は圧倒的な兵もろともに滅んだ。

 日本人なら、「驕れるものは久しからず」という平家物語的でセンチメンタルな教訓を引き出すことだろう。しかし中国民族は違う。

 魏桓子は予め、知伯を恐れる韓、趙と知伯討伐の策について通じ合っていたのである。

 任章は、主人への助言に際して、こう付け加えている。「古言には、〈これを破らんと欲せば、必ずしばらくこれを助けよ、これを取らんと欲せば必ずしばらくこれを与えよ〉とあります」。

 人の心理を読み取って、急がば回れの戦略を立てる。中国民族が考える闘争の勝敗を決めるカギは、至って現実的なのである。

 商道もリアリズム。彼らにとって原則は同じである。

 (書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

 

参考文献

『戦国策』近藤光男著 講談社学術文庫
『中国古典文学大系7 戦国策』劉向編 常石茂訳 平凡社
『世界文学大系5A 史記世家篇』司馬遷著 小竹文夫、小竹武夫訳 筑摩書房

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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経営コラムニスト紹介

宇惠一郎

宇惠一郎氏  元読売新聞東京本社国際部編集委員

 早稲田大学卒業後、商社を経て、1978年読売新聞社入社。社会部、外報部、95~98年ソウル支局長。帰国後、解説部次長、2007年編集委員。2011年4月〜2012年8月ソウル支局長(専任部長)、2012年9月編集委員、現在フリージャーナリストとして活躍している。

 主な著書と受賞歴
「やさしい政治家 早稲田出身国会議員54人の研究」
「理解と誤解 特派員の読む金大中の韓国」
  1997年「第1回 サムスン言論大賞特別賞(海外部門)」受賞


連絡先 ueichi@nifty.com
 

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