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中国史に学ぶ(9) 才なきを自覚し、才ある者を使う

中国史に学ぶ(9) 才なきを自覚し、才ある者を使う

 古代帝国・秦の末期の混乱を収拾したのは、劉邦だった。漢帝国を打ち立てた劉邦は、しのぎを削ったライバルの項羽に比べ、人材の用い方に一日の長があったとされる。人事術が天下の行方を分けた。

 劉邦自身がその妙を語った場面が『史記』にある。

 天下をおさめた後、彼は仮の都と定めた洛陽の宮殿で臣下を集めて酒宴を開き、問う。

 「わしがどうして天下を得たか、また項羽がどうして天下を失ったか、遠慮なく言うてみよ」

 将のひとりで直言居士の王陵が即座に「陛下は人を見下げてあなどられ、項羽は仁慈の男で人を愛するのですが」と切り出した。

 むっとする劉邦。王陵は続ける。「ですが、そこからです。陛下は城を攻めさせ、その地を攻略した時に、攻略した者にそこを与えます。一方、項羽は賢者の才をねたみ、能力あるものに嫉妬する性格です。功労のあったものを殺し、あるいは疑って、戦いに勝っても褒めることなく、獲得した土地も与えない。それで天下を失ったのです」

 功には正しく酬いる。それが人事のツボであることは間違いない。しかし、黙って聞いていた劉邦は、「なるほど。しかしお前はまだわかっておらんようだな」と、話しだした。

 劉邦には、軍師の張良(ちょうりょう)、宰相の蕭何(しょうか)、野戦の名将である韓信(かんしん)という三傑とよばれる逸材がいた。それぞれを引き合いに出していう。

 「はかりごとを陣内でめぐらし、遠く千里の外に勝利を決することでは、わしは張良には遠く及ばない」。軍師に必須の知略の才のことである。

 「国家人民を鎮撫し、兵卒に充分な食糧を補給し、糧道を絶たないことでは、わしは蕭何に及ばない」。行政、戦争遂行に欠かせないロジスティック(補給確保)の才のことである。

 「百万の軍をつらね、戦えば必ず勝ち、攻めれば必ず取るということでは、わしは韓信にとても及ばない」。野戦将軍としての指揮能力、将才についてだ。

 いずれも自分には天下に秀でた才能はないと認めた上で、「しかし、わしは、彼ら三傑をよく使うことができる。項羽は輩下の名軍帥・范増(はんぞう)一人さえ用いることができなかった」。

 自分にできぬなら、腹心に任せて自在に運用する能力こそ指導者に求められていることを劉邦は、強く自覚していたということだ。

 「とらえどころがない」と言われた劉邦の究極の才である。カミソリのような才気あふれる項羽には無かった。心すべし。

 (書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

 

参考文献

『世界文学大系5A 史記本紀篇』司馬遷著 小竹文夫、小竹武夫訳 筑摩書房
『十八史略』竹内弘行著 講談社学術文庫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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経営コラムニスト紹介

宇惠一郎

宇惠一郎氏  元読売新聞東京本社国際部編集委員

 早稲田大学卒業後、商社を経て、1978年読売新聞社入社。社会部、外報部、95~98年ソウル支局長。帰国後、解説部次長、2007年編集委員。2011年4月〜2012年8月ソウル支局長(専任部長)、2012年9月編集委員、現在フリージャーナリストとして活躍している。

 主な著書と受賞歴
「やさしい政治家 早稲田出身国会議員54人の研究」
「理解と誤解 特派員の読む金大中の韓国」
  1997年「第1回 サムスン言論大賞特別賞(海外部門)」受賞


連絡先 ueichi@nifty.com
 

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