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情報を制するものが勝利を手にする(11)
民衆の力を信じて国境を開く

情報を制するものが勝利を手にする(11)
民衆の力を信じて国境を開く

 ハンガリー首相のネーメトは、東西世界を隔て続けてきたオーストリアとの国境ゲートを全面的に開放する機会を慎重に準備してきたがタイミングがつかめなかった。好機は意外なことから訪れる。

 民間団体が、“鉄のカーテン”に風穴を開けたハンガリー政府の決断を祝うために、あるイベント企画を打ち出したのだ。

 「汎ヨーロッパ・ピクニック」と名付けられた企画は、8月19日の一日だけ国境のゲートを開き、オーストリアとハンガリーの両国民がゲートの両側で互いに交流しようというものだった。

 企画の申請を受けたネーメトは、「これは使える」と直感した。ハンガリー国内には、あわよくば西側への逃亡を狙う15万人もの東独からのバカンス客たちが、帰国せず滞留している。「彼らをピクニック当日に国境へ誘導すれば、一日だけ開かれているゲートから西側へ脱走するだろう」。ネーメトは国境警備隊に、東独市民の国境通過に手出ししないように指示する。

 当日、国境ゲートを挟みワインを飲み民族ダンスに興じるお祭り騒ぎにまぎれて、東独市民600人が「自由万歳!」を叫びながら走って国境を越えた。国境警備隊は見て見ぬふりを貫く。そして待ち受ける西独当局者に保護されて西独へ向かう。

 東独政府の抗議に対してハンガリーは、「国境イベントでの不慮の出来事」として取り合わなかった。ソ連からは何の動きもない。ゴルバチョフはウズベキスタンなどソ連国内で起きる自由化要求を弾圧するのに終われ、ハンガリーの動きに対処する余裕はなかった。

 ハンガリー政府の幹部会は、「もはや歴史の流れはだれにも止められない」として、オーストリア国境の全面開放を決定する。

 密使をベルリンに送り込み、東独政府に国境開放方針を告げる。

 9月11日に国境ゲートが開かれると連日、ハンガリーを経由して、数十万の東独市民たちが大脱走を始める。

 東独は国境を全面閉鎖したが、11月9日、ベルリンの壁が崩壊し、ドイツは西独首相コールの指導力で一気に統一に向かう。

 東欧諸国は次々と民衆が立ち上がり社会主義政権を打倒する。1991年12月、ソ連が69年の歴史に幕を下ろした。

 武力を伴わず、大変革は起きた。影の立役者のネーメトは、激動の1989年を振り返る。

 「世界で起きた変革は民衆の手によるもの。私は、流れを見極め決断したにすぎない」

 その決断と行動を支えたものは、小国の生き残りを懸けた、国際的視野での情報に基づく冷静で周到な準備であった。

 (書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

参考文献

『ゴルバチョフが語る冷戦終結の真実と21世紀の危機』山内聡彦・NHK取材班著 NHK出版新書
『1989世界を変えた年』マイケル・マイヤー著 早良哲夫訳 作品社
『1989年 現代史最大の転換点を検証する』竹内修司著 平凡社新書
『東欧革命—権力の内側で何が起きたか』三浦元博、山崎博康著 岩波新書

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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経営コラムニスト紹介

宇惠一郎

宇惠一郎氏  元読売新聞東京本社国際部編集委員

 早稲田大学卒業後、商社を経て、1978年読売新聞社入社。社会部、外報部、95~98年ソウル支局長。帰国後、解説部次長、2007年編集委員。2011年4月〜2012年8月ソウル支局長(専任部長)、2012年9月編集委員、現在フリージャーナリストとして活躍している。

 主な著書と受賞歴
「やさしい政治家 早稲田出身国会議員54人の研究」
「理解と誤解 特派員の読む金大中の韓国」
  1997年「第1回 サムスン言論大賞特別賞(海外部門)」受賞


連絡先 ueichi@nifty.com
 

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