日本経営合理化協会の関連サイト
指導者たる者かくあるべし | 日本経営合理化協会BOOK&CD・DVD

文字の大きさ

日本経営合理化協会 BOOK&CD・DVD
お電話でのご注文も承っております:03-3293-0041

情報を制するものが勝利を手にする(10)
大胆な行動を支えるのは周到な根回し

情報を制するものが勝利を手にする(10)
大胆な行動を支えるのは周到な根回し

 ハンガリー政府、とりわけ首相のネーメトは、東西冷戦という戦後世界を規定してきた枠組みの終息を目指していた。

 ネーメトらハンガリー指導部は、自国が取り込まれている社会主義体制自体がすでに時代遅れだと判断していた。しかし、ハンガリーがオーストリアとの国境を全面的に開放すればどうなるか、冷静な判断が必要だった。

 改革派を自認するソ連共産党書記長のゴルバチョフは、軍事介入はためらったとしても、強烈な経済制裁にでることは目に見えている。

 ネーメトは、国境フェンス切断に先立つ4月下旬、秘密裏に西ドイツ・ケルン近郊の飛行場に飛ぶ。そして西独首相のコールに会う。

 「ハンガリーは、数日内に国境フェンスを切断する。圧力が予想されるが西ドイツはわれわれを支援してくれますか」とネーメトはコールに問う。コールは即座に、「必要な支援はすべて提供する」と決断を下した。

 ネーメトはこの極秘会談でコールに行動計画の全容を伝えている。

「まず国境フェンスを切断する。国境の警備は続けつつ、国境の全面開放が近いことを東独国民に期待させる。東独国民がハンガリーに押しかける夏のバカンスシーズンに、われわれはオーストリアとの国境を開放する。その意味はおわかりでしょう」

 少し説明がいる。東独では自由化を求める市民の反政府デモが激化しているが、東西ドイツの国境は厳重に管理されている。しかし、バカンスを過ごすためにハンガリーに出国することは可能だ。その大量のバカンス旅行者たちを、国境を全面開放することによってオーストリア経由で西独に亡命させる。

 ハンガリーが裏ルートとなって、東西ドイツの壁をぶち壊そうという計画だ。

 西独のコールにとっては、ドイツ統一が悲願である。しかし、ナチスの影におびえるフランス、英国などの西欧諸国、さらにソ連も米国も、ドイツ統一は、冷戦が終わろうとも望まない。そこへハンガリーの提案だ。コールの目には「千載一遇」のチャンスだと映った。ネーメトは、収集した情報から、西独は必ず計画に乗ると見ていた。

 コールは密かに動き出す。オーストリアとの間で、西独を目指す東独市民のビザなし通行を容認する秘密協定を結ぶ。国内では亡命者たちの受け入れ体制を急ぐ。

 そして、潮は満ちた。運命の8月19日がやってくる。小国ハンガリーの根回しで時代は劇的に動くことになる。(次回に続く)

 (書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

参考文献

『ゴルバチョフが語る冷戦終結の真実と21世紀の危機』山内聡彦・NHK取材班著 NHK出版新書
『1989世界を変えた年』マイケル・マイヤー著 早良哲夫訳 作品社
『1989年 現代史最大の転換点を検証する』竹内修司著 平凡社新書
『東欧革命—権力の内側で何が起きたか』三浦元博、山崎博康著 岩波新書

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バックナンバー

2017.05.09
中国史に学ぶ(1) 赤壁の戦いの真実
2017.05.02
情報を制するものが勝利を手にする(17)
ついに時代は李鴻章に追いつかず
2017.04.25
情報を制するものが勝利を手にする(16)
相撲に負けて勝負で勝つ
2017.04.18
情報を制するものが勝利を手にする(15)
人材教育の伴わない改革は意味がない
2017.04.11
情報を制するものが勝利を手にする(14)
理想と現実の間での苦闘と智恵
  1. ≫記事一覧

経営コラムニスト紹介

宇惠一郎

宇惠一郎氏  元読売新聞東京本社国際部編集委員

 早稲田大学卒業後、商社を経て、1978年読売新聞社入社。社会部、外報部、95~98年ソウル支局長。帰国後、解説部次長、2007年編集委員。2011年4月〜2012年8月ソウル支局長(専任部長)、2012年9月編集委員、現在フリージャーナリストとして活躍している。

 主な著書と受賞歴
「やさしい政治家 早稲田出身国会議員54人の研究」
「理解と誤解 特派員の読む金大中の韓国」
  1997年「第1回 サムスン言論大賞特別賞(海外部門)」受賞


連絡先 ueichi@nifty.com
 

宇惠一郎氏の経営コラムに関するお問い合わせ