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第48回 独自の発想で、ぶれない経営を貫く「さくらインターネット」

第48回 独自の発想で、ぶれない経営を貫く「さくらインターネット」

さくらインターネットはデータセンター事業者である。データセンター事業者とは、インターネットに不可欠なデータの保有のためのサーバを設置する場所を確保し、場所そのものを貸与する、もしくはそこにサーバを設置して貸与する、あるいはそのサーバを使った様々なサービスを提供する企業である。
 
ただし、かつてのデータセンター事業者のビジネスは、場所を確保し、空調や回線接続装置などを整備して、場所を提供する、もしくはサーバまで設置して、サーバを貸与する業務が中心であった。インターネット聡明期にはデータを保有する市場が現在ほど急拡大するという認識が世の中にはなかったため、先見の明のある企業家が始めた隙間ビジネスというような位置づけと考えられる。
 
実は、データセンター自体に対するニーズは、当時でもかなりあった。これは金融機関やその他の大企業が顧客データや社内の管理データを保有するためのものである。また、コンピュータメーカーが自社のコンピュータを納入した先のデータを保有する目的である。そして、使用量の多い企業は自前でデータセンターを持っていた。つまり、データセンターの場所を借りたり、サーバを借りたりする市場ができたのはその後である。
 
しかし、インターネット市場が急拡大する中で、当然データセンターに対する需要も増え、データセンターを外販するデータセンター事業者の市場も急拡大を始めると、参入する企業も増え、競争も激しくなった。
 
そもそも、データセンター事業の最初の中身は、都会にあるビルの1フロア、2フロアを借りて、そこに空調設備と、大容量電源設備、回線接続装置を設置するというもので、なかなか差別化が難しいものである。あとは、資本力で大規模のデータセンターを次々作って、営業をかけるというビジネスになりがちである。
 
もちろん、市場が急速に、かつ想定以上に拡大したため、常にデータセンターが不足気味で、各社の業績は順調に拡大した。そのような中、2011年に大震災が勃発すると、需要が急拡大することになる。これは、多くの企業が1か所にデータを集中管理していて、仮にそこが被災した場合、企業の存亡にも関わることになるというリスクを認識したためである。つまり、距離が離れた複数個所にデータを保管するニーズが高まったのである。
 
そのため、2012年から2013年にかけて、次々とデータセンターが立ち上がった。その結果、供給過剰となって値崩れを起こす2013年問題が持ち上がったのである。これはどんな業界でも起こり得ることで、かつては半導体サイクルで、生死の境をさまよった企業も多かったように、データセンター業界も同様のイメージでとらえられ始めた。
 
そこで、データセンター事業者の中には、世界のトップ企業に身売り利する会社や、データセンター事業の経験を生かして、まったく別のネットビジネスに転身する企業も現れた。また、資本力のある大企業に吸収される形で生き残る道を探る企業も多かった。
 
データセンター関連サービスを外販する企業の規模は、回線総量で測るのであるが、今から数年前にはトップであった同社も現在は5位ほどとなっている。上位企業は、トップが世界トップのエクイニクスの日本法人、2位から5位はそれぞれYahoo Japan、関西電力、丸紅の子会社となっている。
 
その中で、同社が生き残れた要因は、もともと顧客のサーバを預かる場所貸しのようなビジネスのウエイトが他社ほど高くなく、小口のレンタルが多かったことや、仮想サーバやクラウドにシフトしたことが背景にある。
 
世の中自体も、サーバは保有から利用に代わって行ったこともあり、その流れにはスムーズに乗れている。しかし、顧客が保有から利用に移行することで、サーバの設置場所はどこでもいいということにもなる。つまり、海外でも実質的には問題がなく、より大規模な海外企業とのコスト競争も始まることを意味している。現に、回線容量トップの日本エクイニクスの親会社のエクイニクスの全世界の売上高は約4,000億円と同社の20倍以上もある。
 
それに対して、同社は2011年には、日本では大都市が常識であったデータセンターを石狩に建設して、ローコスト化を実現している。サーバの運用コストの50%は空調のための電気代と言われており、北海道において外気を利用して使用電力量を半減させる施設を建設した。当然、東京、大阪と言った大都会と違い、固定費も格段に低く、コスト競争力を付けている。
 
しかし、同社はコスト競争で勝つことを考えているわけではない。データセンターをそのまま提供するのではなく、自社の技術力を活用して、顧客の様々なニーズに対応する新たなサービスを開発することに焦点を定めている。ただし、その場合にも、コストが低いことは極めて大きな要件となる。
 
ここで、大きな問題となるのは、優秀なエンジニアの確保である。エンジニアは人手不足感の強い職種であり、しかも残業、残業と就業環境が劣悪になるという大きな問題がある。そこで同社ではこの2年ほどで、大量にエンジニアを確保した。さらに、エンジニアが疲弊しないように、残業を少なくする一方で、残業代に相当する分を基本給に組み入れ、所得は確保できるようにした。これによって、2期間ほど利益は伸び悩んでいるが、減っているわけではなく、売上の急拡大が見えてきたゆえの大胆な施策と言えよう。
 
このように、成長市場であるが、競争が激しいデータセンタービジネスにおいて、コスト面の優位性と技術者の確保という難題に効果的な手を打ったことで、同社の今後の飛躍が見込まれるところである。
 
有賀の眼
 
インターネット市場という、技術進化によって半年、1年で目まぐるしく変化する市場において、次々と効果的な手を打つことはなかなか簡単ではない。誰でも考えつくことを行うのはたやすいが、それでは競争には生き残れない。
 
同社の田中社長は、なかなか考えつくのが難しく、考えついても躊躇するようなことも大胆に行えるという点で、優れた経営者の一人ではないかと考えられる。今でこそ、石狩平野にデータセンターがあることは、むしろ同社のブランド価値になっているが、決断当時はデータセンターと言えば大都市の東京、大阪が常識であった。
 
また、エンジニアの重要さはわかっていても、働き方や処遇まで大胆に変えるには、経営者にとって勇気のいることではないかと思われる。そんな難事もひょうひょうと成し遂げられる大胆さが、経営にとっては極めて重要なことではなかろうか。
 

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経営コラムニスト紹介

H&Lリサーチ代表 有賀泰夫氏

有賀泰夫氏 H&Lリサーチ代表/証券アナリスト

1955年生まれ。埼玉大学生化学科卒業後、新日本証券(現みずほ証券)、クレディリヨネ証券、三菱UFJ証券でアナリストとして活躍。専門分野は食品、食品卸、小売業、外食産業、ネット、バイオ企業など。特に卸売業を介した日本独特の効率的な流通構造の分析に関しては第一人者。独立後、H&Lリサーチを設立、代表に就任。株式投資アドバイザー、株式分析、産業分析コンサルタントとして企業分析、セミナーや講演会でも人気を博す。 共著に「日本の問屋は永遠なり」(2012年5月、491アヴァン札幌)、《最新刊》有賀泰夫の「最新・株式市場の行方と有望企業」CD、有賀泰夫の「消費市場と有望企業CD」有賀泰夫の「日本の問屋は永遠なりCD」他、インターネットの最大手株式投資SNSみんなの株式などにコラムを執筆中

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