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第47回 先行投資による利益の落ち込みを投資家に納得させる経営:「サイバーエージェント」

第47回 先行投資による利益の落ち込みを投資家に納得させる経営:「サイバーエージェント」

サイバーエージェントはインターネット広告の最大手である。10年ほど前までは50億円ほどの営業利益の会社であったが、今や300億円前後の営業利益を稼ぎ出す。本来、インターネット広告は右肩上がりで急成長していることから、広告ビジネスだけを取れば右肩上がりであるが、同社の業績は比較的大きく変動する。
 
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この背景にあるのが、しばしば新規事業への先行投資のために、利益の大半を投じることである。思い切った先行投資を行えば、業績は大きく悪化することもある。しかし、株式市場に上場していると、先行投資のための大幅な利益停滞を投資家が嫌うため、経営者と市場が軋轢を起こすことがある。
 
しばしば、経営者は投資家からのそのような制約を嫌って、MBO(Management Buyout:経営陣による買収)によって、上場廃止の道を選ぶ。一例を挙げれば、すかいらーくの例が挙げられよう。
 
しかし、同社の藤田社長は、過去の実績と投資家との対話によって、大きな先行投資による利益の落ち込みを投資家に納得させる力量がある。
 
同社は広告代理店であり、ネット上のメディアから広告枠を調達して、その枠をスポンサーである広告主に売り込むビジネスである。それに対して過去において同社は自らメディアを獲得しようとしてブログを立ち上げた。と言っても、既に当時多くのブログが存在していたが、巨大メディアとして成り立っていたブログが皆無の時代であった。
 
それゆえ、長期間にわたって同社はブログで赤字を垂れ流すことになる。しかし、ブログにSNSの性格を付与し、かつ多くの芸能人を巻き込んでブログによって膨大なアクセス数を獲得したことで、見事にブログのメディア化に成功し、ブログの収益化を成し遂げた。これは2004年に立ち上げたアメブロであるが、2009年9月期まで赤字を垂れ流していた。営業利益が50億円ほどの会社でありながら、多い時には年間20億円の赤字を垂れ流していたのである。
 
しかし、膨大なアクセスを集めるようになると、一気に黒字化し、2011年にはアメブロだけで75億円の黒字と、全社利益の2分の1を稼いでいる。そこで、投資家はこのまま一気に利益が増えるものと期待したのであるが、当時急速にスマホが普及したことで、今度はスマホ市場を押さえるために人員のシフトによってアメブロの稼ぎを一旦ゼロにするだけではなく、90億円近い赤字を出して、アメブロのスマホ化を推進するのである。
 
その結果、当時、174億円の営業利益が翌期には103億円まで落ち込むことになる。しかし、スマホの広告市場において1年ほどで誰も追いつけないほどの成功をおさめ、翌期の営業利益は222億円となり、その翌期には327億円とまさに飛ぶ鳥を落とす勢いとなった。
 
投資家はこれでほっと一息つくのであるが、同社はスマホ市場の制覇だけには安住せず、畳みかけるように映像事業に突き進んで行く。今度は年換算で200億円の経費を投入して、インターネットの無料TVという誰もチャレンジしたことのない市場に突き進んだ。本来は無料TVへの投資によって2016年9月期は減益であるのだが、過去に投資したベンチャー企業の上場があったため、売却益が発生して増益を維持した。ベンチャーへの投資も事業の一環ではあるが、さりとてあくまでも一過性の利益である。そして、今期の利益見通しは24%の減益予想である。
 
昨年4月にスタートしたインターネットの無料テレビであるAbemaTVはすでに1,600万ダウンロードを達成して、着実にテレビに匹敵するメディアに育ちつつある。しかも、テレビの視聴者が高齢化する中で、10代、20代の若者が視聴者の中心である。つまり、視聴者数の絶対値はテレビにはまだまだ追いつかないが、若い世代をターゲットとする企業にはテレビ以上に価値のある広告媒体として育っているということである。
 
同社の藤田社長は上場企業の責務として、新規事業の状況を逐一投資家に報告し、利益が減っていても投資家を納得させている。また、投資家への見返りとしてはDOE5%を約束している。これは利益水準が低くとも、毎期株主資本に対して5%の配当を行うというものである。DOE5%とは、ROEが10%の会社で50%の配当性向ということであり、上場企業でもめったにない高水準の配当である。それだけの配当をしてもびくともしないキャッシュを生み出し続ける自信に裏打ちされたものであり、減益見通しながらも株価は2年前の過去最高水準を更新する勢いである。
 
 
 
有賀の眼
 
上場企業と非上場企業の一つの大きな差は、社外の株主への説明責任があるか、ないかである。同じ文化を共有している社内向けの説明と違って、事業とは全く別の世界のルールに則って説明しなければならないわけであり、経営者にとっては一つの大きな壁となることもある。
 
ただし、それを負担と感じずに、逆に部外者を説得することを通じて、経営力の向上に積極的に使おうという経営者もいる。サイバーエージェントの藤田社長もそんな経営者の一人として、むしろ外部から見ていて楽しめる経営者である。
 
また藤田社長はギャンブラーとしての一面も持ち合わせており、同社のインターネット無料テレビであるAbemaTVでは、藤田氏が連日プロの雀士と互角に渡り合う様子を見ることもできる。先行投資による利益の落ち込みを投資家に納得させる勝負師としての藤田氏は、今後も楽しみな経営者の一人である。

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経営コラムニスト紹介

H&Lリサーチ代表 有賀泰夫氏

有賀泰夫氏 H&Lリサーチ代表/証券アナリスト

1955年生まれ。埼玉大学生化学科卒業後、新日本証券(現みずほ証券)、クレディリヨネ証券、三菱UFJ証券でアナリストとして活躍。専門分野は食品、食品卸、小売業、外食産業、ネット、バイオ企業など。特に卸売業を介した日本独特の効率的な流通構造の分析に関しては第一人者。独立後、H&Lリサーチを設立、代表に就任。株式投資アドバイザー、株式分析、産業分析コンサルタントとして企業分析、セミナーや講演会でも人気を博す。 共著に「日本の問屋は永遠なり」(2012年5月、491アヴァン札幌)、《最新刊》有賀泰夫の「最新・株式市場の行方と有望企業」CD、有賀泰夫の「消費市場と有望企業CD」有賀泰夫の「日本の問屋は永遠なりCD」他、インターネットの最大手株式投資SNSみんなの株式などにコラムを執筆中

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