【好評発売中!】「春季・全国経営者セミナー」講演CD・DVD 

日本経営合理化協会の関連サイト
深読み企業分析 | 日本経営合理化協会BOOK&CD・DVD

文字の大きさ

日本経営合理化協会 BOOK&CD・DVD
お電話でのご注文も承っております:03-3293-0041

第1回 卸売業の機能をうまく活用した秀逸なビジネスモデル「コスモス薬品」

第1回 卸売業の機能をうまく活用した秀逸なビジネスモデル「コスモス薬品」

九州を地盤として今、猛烈な勢いで東進するドラッグストアがある。それがコスモス薬品だ。過去3年間の売上高成長率は年率16.2%、営業利益成長率は年率34.8%に達する。同社は年間60店舗あまりの出店をしながらも、ほとんど無借金の会社である。

同社のビジネスモデルは極めてユニークで、しかも日本の流通構造を担う卸売業の機能を効率よく生かしたものであるが、その本質に関してはあまり理解されていないと思う。今回は、同社の躍進を陰で支える日本の流通構造に触れながら、同社躍進の秘密を探ることにしよう。

同社が借入金に依存せず、大量の新規出店を行いながら、高成長を遂げることができる背景には同社のキャッシュ・コンバージョン・サイクル(以下CCC)がある。
CCCとは売上債権と在庫の合計と買入債務を比較したもので、在庫と売上債権の回転日数から買入債務の回転日数を差し引いて計算する。一般的に売上債権の日数計算の分母は売上高、在庫と買入債務の日数計算の分母は原価になる。この値で何がわかるかというと、原料を仕入れて、製品を販売し、キャッシュを回収するまでの日数がわかる。

このCCCは小売業にとって極めて重要な指標である。そこで、いくつかの小売業間で、CCCを比較してみると、同社の強さが理解できる。
下の表はドラッグストアとホームセンターでCCCを比較したものである。まずはここで、CCCを計算する場合の分母について考えておきたい。最初に述べたように、一般的な方法は売上債権の回転日数計算の分母を売上高とし、在庫及び買入債務の回転日数計算の分母を原価とするものである。

これは、それぞれの回転日数を比較するという面では考えやすく、業態が同じ企業を比較する場合に大きな支障はない。ただし、実質的なキャッシュの余裕度を考える場合には、それぞれの絶対額の差で考えた方がわかりやすく、業態が異なる場合にもその方が比較しやすい。つまり、日数計算を行うときに、その目的によって在庫と買入債務に関しては、分母を原価とするケース、分母を売上高とするケースと使い分ける必要がある。

ここでは、実質のキャッシュの余裕度を比較するために、すべて回転日数計算の分母を売上高としている。

fukayomi1.png

 

同社のCCCは「-26.0日」と最も回収が速い。これは仕入れて現金を支払う26日前にすでに資金回収が終わっていることを示している。最右欄のホームセンターのコーナン商事のCCCは「52.6日」であり、キャッシュの回収に52.6日かかっていることになる。

同じドラッグストアでもマツモトキヨシは「13.2日」であり、クリエイトSDは「-7.7日」と企業によって大きく異なる。
CCCがマイナスであるということは、売上高が増えても新たなキャッシュを必要としないことを意味し、設備投資などの資金を借り入れなくても済む。一方、CCCがプラスであると、設備投資には新たな資金を調達しなければならない。その結果、同程度の設備投資を行うと仮定した場合、当然、CCCがプラスの企業は有利子負債が増えやすくなる。

そのため、CCCによって成長率に差がついており、上の表ではCCCのマイナス幅の大きな同社の売上高年平均成長率は16.2%であるのに対し、マイナス幅が小さいクリエイトSDは6.7%、プラスとなっているマツモトキヨシが3.5%、コーナン商事に至っては-0.4%となっている。

CCCによってこれだけ成長率に差ができるのであるが、それではほぼ同じ業態でありながら、CCCにこのように大きな差ができるのはなぜであろうか。
この差は、キャッシュ創出力の高い卸売業に依存しているか、いないかの差である。

日本において(というよりも実際は日本だけなのだが)、キャッシュ創出力の高い卸売業は加工食品卸売業である。それゆえ、加工食品の扱い高が大きいとCCCが短くなる関係にある。コスモス薬品の食品構成比は52.6%に達し、クリエイトSDは32.9%となっている。それに対して、マツモトキヨシは11.0%に過ぎず、コーナン商事は業態の違いもあるが、食品の扱いは極わずかとなっている。

つまり、日本では加工食品を扱うことによって、キャッシュに余裕ができ、成長資金に困らない状況となるのである。
もちろん、食品を多く扱うためには、食品を販売するノウハウが必要である。食品は様々な業態の企業が取り扱っており、競争は厳しい。単に安売りをしては赤字になるため、取扱量を増やすことができない。そのため、ただ単に扱い量を増やせばいいという問題ではないが、小売業にとって食品を取り扱うノウハウを研究することは極めて重要な戦略であることは間違いのないことである。

なお、取引を行うことによって、小売業にマイナスのCCCを提供できる卸売業は、加工食品卸売業が断トツであり、一部医薬品卸も可能である。ただし、これは日本独特なもので、世界ではこのような卸売業は存在しないと考えられる。

《有賀の眼》
このキャッシュ・コンバージョン・サイクルはどんな企業にとっても重要ですし、ある程度意識することによって改善します。特に今のように低金利下ですと、改善しやすい可能性があります。そして、金利が上昇すると生きてきます。
方法としては、売掛金のサイトを短くする。買掛金のサイトを長くする。在庫を少なくするのどれかになります。
もう一つの点は、小売業であれば、加工食品を扱うことを考えてはどうでしょうか。ただし、自ら本気で取り組まないと意味がありませんが。 

バックナンバー

2017.05.12
第47回 先行投資による利益の落ち込みを投資家に納得させる経営:「サイバーエージェント」
2017.04.14
第46回 同社躍進の方法論は、意外に汎用性があるかもしれない:「プリマハム」
2017.03.10
第45回 零細企業乱立で、厳しい市場だからこそチャンスがある :「やまみ」
2017.02.10
第44回 際立った特徴を打ち出すことに活路を見出す :「ジャパンミート」
2017.01.20
第43回 長期ビジョンを掲げて着実に前進する証券会社:「今村証券」
  1. ≫記事一覧

経営コラムニスト紹介

H&Lリサーチ代表 有賀泰夫氏

有賀泰夫氏 H&Lリサーチ代表/証券アナリスト

1955年生まれ。埼玉大学生化学科卒業後、新日本証券(現みずほ証券)、クレディリヨネ証券、三菱UFJ証券でアナリストとして活躍。専門分野は食品、食品卸、小売業、外食産業、ネット、バイオ企業など。特に卸売業を介した日本独特の効率的な流通構造の分析に関しては第一人者。独立後、H&Lリサーチを設立、代表に就任。株式投資アドバイザー、株式分析、産業分析コンサルタントとして企業分析、セミナーや講演会でも人気を博す。 共著に「日本の問屋は永遠なり」(2012年5月、491アヴァン札幌)、《最新刊》有賀泰夫の「最新・株式市場の行方と有望企業」CD、有賀泰夫の「消費市場と有望企業CD」有賀泰夫の「日本の問屋は永遠なりCD」他、インターネットの最大手株式投資SNSみんなの株式などにコラムを執筆中

H&Lリサーチ代表証券アナリスト有賀泰夫氏の経営コラムに関するお問い合わせ